「いくぞっ! よいしょー」
「矢萩、もっと、もっと密着しろ!」

 俺の気合い声と森部長の指導声が交わる。

 左右の補助を受けながら、少しだけ輪島が浮かび上がる。

「よし、今日はここまでだ!」

 森部長の声を合図に今日のトレーニングは終わった。

「矢萩くん、いい感じだったよ!」

 トレーニングを応援してくれていた中谷から、
お茶のペットボトルをもらった。

「でもひとりだとまだ全然で……俺も筋トレ結構しているんだけどな」
「大丈夫だよ! この調子だと、もう少しで輪島くんと恋人になれそうだね!」
「本当に恋人になれるのかな……俺と輪島、似合う?」

「似合うし、恋人になれるよ! もう雰囲気がそんな感じだし。密着取材の番組を昨日観たけど、特に牛乳ヒゲのシーンが恋人みたいだったよ。とにかく、あとはお姫様抱っこだね!」
「あの牛乳ヒゲシーン、カットしてって取材の男にあの時、目で合図したのにな……」


――はぁ、早くお姫様抱っこができるようになって、輪島から告白されたい。

 そしてそして、三日後の夜、ついに運命の日が!



「なんか、今日は力がみなぎっている気がする。輪島も、そんな日はないか?」
「特にないな」

 部屋で夜、ふたりそれぞれ机に向かい、勉強をしている時だった。ちなみに俺は、スマホで色々なお姫様抱っこの画像を眺める勉強をしていた。

「輪島、ベッドに横になってみろ!」

 頷くと輪島は、自分のベッドにゴロンした。
 俺は輪島をお姫様抱っこできる位置に移動した。
 
「これから、お姫様抱っこチャレンジをしてみます」

 両腕は、輪島とベッドの間に挟まれた。背中はまっすぐ、腕だけに頼らず色々なところの筋肉を意識して、上半身を輪島に密着させ歯を食いしばる。

 俺は全ての神経筋肉をお姫様抱っこに集中させた。そして――。

「ふんぬ!」

 普段出さないような呪文が俺の口から出てきて……な、なんと輪島が一瞬だけど浮かび上がった。

「や、やったぞ、輪島! 今、浮いたよな? どうだった?」

 俺は興奮しすぎて、ゴロンしている輪島を抱きしめた。

「先輩……合格だ!」
「やった、やったぞー!」
「先輩、姿勢を整えたい」

 輪島の言葉で、俺は思い切り輪島に抱きついていたことに気がつき、照れながら離れた。

「だ、抱きついて、ごめん」

 輪島はベッドの上で正座をする。俺も輪島のベッドの上に乗り、向かい合わせになるように正座した。

 ドキドキドキドキ……真面目な表情で見つめてくる輪島と見つめ合うと、すごく緊張してきた。

「先輩、付き合ってくれ!」
「うん!」

 俺は、全力で頷いた。
 ついに俺たちは、恋人になった。

「先輩……抱きしめていいか?」
「うん!」

 輪島が俺を優しく抱きしめてきた。俺は輪島の背中に手をまわす。

「先輩……いいか?」
「うん!」

 恋人になったからなのか、輪島が何をしたいのかすぐに分かった。それは、俺もしたいと思っていたこと。

 輪島の顔が近づいてきた。そして――。

 


 ☆。.:*・゜


 俺たちは、筋トレのお陰で、結ばれた――。


☆。.:*・゜