輪島が優勝してから一週間後の土曜日。ついに輪島が取材される日が来た。午前中朝飯を食べたあと、部室で筋トレをしているところから取材は始まる。そして筋トレが終わると昼飯を食べて、そのあと輪島と街で遊ぶ予定。今は部屋の中で顔を洗ったり着替えたりしていた。買い物はよく一緒に行くけど、遊ぶのは初めてだ。実は緊張している。俺と一緒に遊んで、輪島は楽しんでくれるのかな?

――今日は、輪島の友達として一緒にいるんだよな。

「友達、か……」

 輪島に聞こえないように俺は呟いた。

 まだ輪島と俺は、恋人ではない。秦のアドバイスを旅館でもう一回実行してみた。ちなみに実行してみたのは寝る前、中谷に五千円を返す時だった。

「お金、返すわ。ありがとな」と中谷に五千円を渡した直後に、輪島がムッとした様子で「どうして中谷先輩に五千円も借りた?」と、聞いてきた。
「いや、プライベートでちょっと?」と濁すと「必要なら、自分が貸したのに。先輩が自分に聞かずに他の人からお金を借りる行為は……嫌だ」と詰め寄ってきた。

借りた理由は、輪島のプレゼントを買ったからだよ!とは、まだ言えなくて。ちなみにプレゼントを渡す予定の〝輪島優勝おめでとう会〟は、取材のために部室を大掃除したりしていたら結局まだやれてなくて、取材の次の日にやろうということに。

「借りたのは一瞬だし。それに、輪島以外から借りてもいいじゃん。別に、俺たちは付き合ってるとか、特別な関係なわけじゃないんだし」
「……そうだな」

 それから輪島は、ふっと炎が消えたように、冷静になり俺から離れていった。アドバイスでは、付き合う話を輪島がしてくる予想だったのに――。

 その時の表情を思い出す。食らいついてくれる表情から諦めたような表情になっていた。明らかに俺たちのやり取りを見ていた秦も、俺が秦の方を、じろっと見ると気まずそうに目をそらしてくるし。

――もう、その作戦は辞めよう。なんか、言葉を発したあとの後味が悪い。現実を突きつけられて、虚しくなってくる。

 そんな遠回りしなくても、ただ「恋人になりたい」って伝えればいいだけなのに。

 伝えて、もしも断られたら?
 そんな関係までは望んでいないと距離を置かれたら?

――もう、ひとりにはなりたくない。輪島にはずっと俺のことを気にしていて欲しい。

「どうした?」

 気がつけば輪島を目で追っていて、輪島はそれに気がついた。

「いや、今日輪島と遊ぶの楽しみだなって考えてた」
「そうだな!」

 俺たちは準備を終え、朝飯を食べると部室に向かった。