「いいですか? まず、輪島くんは表面に出していない時にもすごく嫉妬深くて、好きになった相手への執着はムッツリすごいタイプだと思うのです」
「あぁ、たしかに嫉妬深いのはあるな」
「多分この先も、矢萩くんが誰かと仲良すぎる雰囲気を一瞬でも見せると、輪島くんは嫌がるでしょう。そしてある一定のラインを超えると我慢しきれなくなり『俺以外には辞めてほしい』的な発言をしてくるはずです」
「秦、すげえな。なんか当たる天気予報士みたいだ。そっか、その時になんか言って『別に、俺たち付き合っているわけじゃないし!』って付け足せばいいんだな?」
「そうです、それです。そしたら付き合う話をしてくるはず。はず?」

 自分の言葉に対して、首をかしげる秦。

「どうした?」
「いや、なんでもないです……やるの、難しそうですかね?」

 秦も輪島みたいに煽り系なのか?

「いや、できるし」
「じゃあ、その作戦で行きましょう!」
「うん、分かった。やってみる」

 本当にその作戦でいいのだろうか。というか、そのあとはどうなるんだろう、ぽんぽんとふたりの関係は進んで恋人になれるのか? 分からん。きっと秦が教えてくれた作戦は上手くいくはず。今後チャンスがあればそのセリフを言えばいいんだな。

 そのあともなんだかんだで盛り上がり「そろそろ部屋に戻ろうか」と、中谷の言葉を合図に部屋に戻った。

 部屋に戻ると、森部長と青木副部長、そして輪島の三人は先に戻っていた。

「先に風呂上がったのに、戻ってくるの遅かったな、何してたんだ?」
「ち、ちょっと、寄り道?」

 青木副部長が部屋の入口まで走ってきて質問すると、中谷は濁して答えた。

「どこまで寄り道してるんだよ」
「あ、そうそう! 青木先輩に渡すものがあるの。僕とお揃いだよ!」

 中谷はダンベルのキーホルダーを青木副部長に渡した。

「まじかよ! 俺、泣きそうなんだけど」

 ふたりは見つめ合い、微笑みあっていた。
 めちゃくちゃいい雰囲気で、羨ましい。前よりも深い関係になっているようにも見えるし。〝恋人〟と、はっきりと名前のある関係。いいないいな!
俺もやっぱり、輪島と恋人になりたい。

――お金は、あとで返そう。

 邪魔をしてはいけないと思い、そっとふたりから離れる。森部長と輪島が部屋の奥にいた。そして、気になる会話をしている。

「輪島、この取材どうする? 人気でると思うから、受けるか?」
「いや、全く興味は無い」
「そうか? でも輪島の知名度上がれば、輪島に憧れて入部する生徒も増えそうだから、筋肉部にとってはいいことづくしだと思うが……」

 輪島にあとから渡す予定のプレゼントを旅行バッグにそっと忍ばせると、ふたりのところへ一直線に向かい、声をかけた。

「輪島が、取材? すげーな!」
「そ、そうか?」
「どんな取材なんだ?」
「輪島の一日を密着したいそうだ。朝から、筋トレを含むプライベートの一日。休日だから、いつも遊んでいる場所でも撮りたいらしい」
「でも、普段はどこにも出かけないし、筋トレばかりだから、撮ってもつまらな……」
「じゃあ、俺と出かけるか?」

 取材を受けないのは勿体ない。かっこいい輪島はもっと世間に広まるべきだ。それに、輪島と一緒に、遊びに出かけるチャンスは、なかなかない。いつもは出かけるとしても全部用事が済ませられる、近くのショッピングモールぐらいだ。「どこに行くんだ?」と、俺が買い物に行こうとすると毎回必ず聞いてくれて、ついてきてくれる。

――輪島と、遊ぶデートをしてみたい。

「でも、取材はちょっとな」

 渋る輪島に俺は追加攻撃を仕掛けた。

「そっか、一緒に出かけるのも微妙だよな。別に、俺たち付き合っているわけじゃないし……」

 落ち込んだようすの芝居をすると、ふたりは顔を手で覆い隠し、ふっと声をおさえるように笑った。本当はもっと笑いたいけど、我慢をしているような感じにも思える。

――俺、変なこと言ったか? 秦がアドバイスしてくれたセリフを早速使ってみたけど、タイミングが悪かった? いや、悪かったな。特に何も嫉妬されていなかったし。しかも付き合ってなくても一緒に出かけるよな。意外と難しいな、この作戦。

「分かった。当日は、先輩にリードしてもらう」
「じゃあ、取材OKなのか? 俺が引退しても筋肉部は安泰だ!」

 森部長が、俺よりもよろこんでいた。
 だけど、俺だって本当は、思い切りバンザーイとしたいぐらいに嬉しいんだ。