部屋で休み、鍋や魚や豆腐や……美味しいご飯を食べたあとはみんなで温泉に入った。広くて誰もいなくて貸切状態。しばらくすると、俺と中谷以外はサウナの部屋に「ととのえる」と呪文のような言葉を唱えながら入っていった。俺たちは、のぼせそうだったから先にあがり、浴衣に着替えてしばらく扇風機の前で休憩し、脱衣所から出た。

「ねぇ、矢萩くん。お土産屋さんに寄っていい?」
「いいぞ!」

 ふたりでお店の中に入ると、それぞれ別々に店内をさまよう。さまよっているとTシャツコーナーにあった一枚のTシャツが目に入り、俺は立ち止まった。

 黒い生地の中に『筋肉最強』と白い文字で書かれたTシャツ。

――これ、輪島に似合いそうだな。輪島のためにあるTシャツだな。

 買おうか? でも、輪島の好みじゃなかったらどうしよう。本当に毎回、輪島のことになると色々考えすぎちゃうな。

「これ、輪島くんっぽいTシャツだね!」

 もじもじしていると店の袋を持った中谷が後ろにいた。

「だろ? 輪島に似合うと思うんだけど、好みじゃなかったら、ただの迷惑だなって思って」
「似合うと思うし、矢萩くんからもらうものなら、何でもうれしいと思うよ!」
「なんでうれしいと思った?」

 あっ、今の俺の話し方、ちょっと輪島に似てた。

「だって、輪島くんは矢萩くんのこと大好きだから」

――中谷には、輪島から「好き」って言われたことは内緒にしていたはず。

「その話、輪島から聞いたの?」
「いや、もう部員みんなにバレてるよ!」
「まじで!? いつから?」
「僕が気づいたのは、お姫様抱っこの時かな。僕から矢萩くんをさらっていった時」

 そうだったのか。まぁ、バレてても別に大丈夫か。それよりも――

「……どうしよう、Tシャツ、お揃いで買ってプレゼントしようかな!」
「うん、いいと思う。僕も今、青木先輩とお揃いの、可愛いダンベルキーホルダー買ったんだ!」

 中谷は照れくさそうに微笑んだ。

「中谷と、青木先輩は……あの、その……」
「付き合い始めたよ!」
「そうなんだ! 付き合い始めたって、最近?」
「そう、秦くんから、少女漫画を元にしたアドバイスをもらって実行したら上手くいったの」
「そっか……付き合っているんだ」

 そういえば俺と輪島は、お互いに好きとは言い合ったけど、恋人ではない。今の関係って、もしかして曖昧な感じなのか?

――いいな、俺も、輪島の恋人になりたい。

「ふたりはまだなんだ?」
「うん、付き合ってはいない」

 ふたりが話をしていると、店の前を秦が通り過ぎようとしていた。

「ちょうど秦くんだ! 矢萩くんも相談してみたら?」

 そうしよっかな――。

「秦!」

 俺は秦を呼んだ。秦はひょこひょこ店の中に入ってきた。

「秦に相談あるんだけど、いいか?」
「はい、僕が乗れる相談でしたら……」
「ありがとう、ちょっと待ってて、Tシャツ買ってくる」

 筋肉最強Tシャツをふたつ持つと、財布が部屋にあることを思い出す。

「中谷、部屋に戻ったらすぐに返すからお金借りていい?」
「いいよ! プレゼント渡すの楽しみだね!」

 中谷は財布から五千円札を出すと、俺の手に乗せてくれた。

「ありがとう。プレゼント、優勝おめでとう会の時に渡そうかな?」
「いいね!」
「俺がプレゼント買ったこと、内緒な!」

 輪島はどんな反応してくれるんだろうとか、渡すのドキドキするなとか……色々考えながら俺はレジに行き、支払う。そしてついに輪島とお揃いのTシャツを買った。買ったことがバレないように、温泉に入る前に着ていた服が入っている袋の中に忍ばせた。