「……先輩をお姫様抱っこしていた四人が、本当に羨ましかった」

 しばらくすると、輪島が言った。

「えっ? 全部見てたのか? もっと早くに声かけろよ」
「嫌だったけど、先輩がお姫様抱っこされたいのなら、先輩の意思は尊重したい。だけど我慢しきれなくなって、先輩をさらってしまった……」

 いつから見られていたんだろうと思っていたけど、全員にお姫様抱っこされていたのを、がっつり全部見られていたのか。全く気がつかなかった。

「先輩に『好きだ』と気持ちを伝えた日だけだ、先輩をお姫様抱っこできたのは。たったの一回だけ……本当はあれから、お姫様抱っこをまたしたいと、何回も考えていた……お姫様抱っこしている夢もみた」
「そうだったのか……」

 輪島の頭の中はそんなことに。
 筋肉のことだけではなく、俺のお姫様抱っこについても考えてくれていた。しかも何回も――。

「先輩!」
「なんだ?」
「先輩は、先輩ができることなら何でもするって、こないだ言いましたよね?」

 輪島が急に敬語になった。
 
「あぁ、言ったけど。」
「じゃあ、毎日お姫様抱っこさせてください」

 それは、俺がするんじゃなくて、俺はされる側じゃないのか?

 輪島は急に起き上がり座った。そして背筋をまっすぐに伸ばして、膝の前に両手を置き頭を下げだした。

「……そんな頭を下げなくても、お姫様抱っこ、毎日してもいいぞ」
「ほ、本当か?」

 輪島は頭を上げて目を見開いた。

「あぁ、好きな時にお姫様抱っこしてくれ! でも、ふたりきりの時だけな!」
「わかった、じゃあ今やらせてくれ!」
「今かよ!」

 輪島はベッドから降りると、俺を軽々持ち上げた。

「輪島のお姫様抱っこは、青木副部長よりも軽々で、森部長よりも安定感があって、秦よりも居心地がいい。それに、輪島にお姫様抱っこされた時だけ、他の人には感じない、特別なドキドキもする。やっぱり、輪島のお姫様抱っこが一番いいな!」
「はぁ、先輩をまたお姫様抱っこできた。幸せだ、幸せだ!」

 輪島はぎゅっと強く抱きしめてきた。

「輪島、力入れすぎて痛いって! 本当に俺潰れるから!」
「す、すまん」

 こんなに心地いいお姫様抱っこを、これから毎日してくれるなんて、最高だ!

 ふたり目を合わせて、笑いあった。
 そして甘えるように、輪島の大胸筋に自分の顔をくっつけた。目を閉じると、さっき俺だけに見せてくれた可愛い泣き顔を思い出した。

「輪島、これからも輪島の弱い部分、みせてな」
「先輩にそんな姿はみせられない」

 強いところも、弱い部分も。知れば知るほど輪島をどんどん好きになる。
 求められるほど、俺の心は満たされていく。

「輪島、大好きだ」
「先輩から大好きと言われると、どうにかなってしまいそうだ」

――輪島が、本当に本当に大好きだ。

 寝心地がよくて気に入っている枕に顔をうずめるように、大胸筋に顔をうずめた。