「とにかく、教祖は人懐っこいんですよ。酒の席では、わしは写楽と呼ばれた男だと冗談を言っておられましたな。わたしは入信はしていませんが、あの方に心酔しております。若い頃、原爆の被害に遭われたようです。苦労なさっているからこそ、あのようなユーモアと慈悲深さが滲み出るのでしょうな」
 羽田も、一度だけ、病院の廊下で教祖の姿を見かけた事がある。
 あの時、初老の執事のような痩身の男が教祖の車椅子を押していたのだが、初老の女性が、タタッと駆け寄り、とても嬉しそうに教祖に話しかけていた。
『あらあら、村上さんやないですか。どないしはったん?』
『あんたこそ、どないしてん?』
『義理のお母さんのお見舞いですねん。いやぁ、半世紀ぶりに会えて嬉しいわ。運命の恋人同士みたいですやん』
『わし、毎週、病院でトレーニングしてますねん』
 教祖というよりも、まるで人気者の明石家さんまさんのような雰囲気である。
『村上さん、教祖になりはったらしいな』
『いやぁ、そないに大層なもんとちゃいまんねん。ここだけの話、劇団の座長みたいなもんでんがな』
『村上さんは、いつ見ても若いですね。もうすぐ百歳には見えませんね』
『そう言う、あんさんも女子大生みたいにピチピチやないですか』
『アホな。こんな白髪の女子大生がおるかいな』
 軽口を叩き合いながら朗らかに笑う教祖は日本猿に似ており、孫の村上医師のような色気のある美形ではない。
 聞いたところによると、戦後の闇市などで儲けており、その後、立ち上げた芸能関連の事業で成功したという。
 彼は、施設の子供達からは、『お父さん』と呼ばれて慕われていた。
 生活に困っている人を救う事が使命だと感じているのか、ある時、地元紙のインタビューでこんな事を言っていたのである。