「いいか、絶対に内緒だぜ。ニ週間前、村上先生に右目だけ移植してもらったんだ。違法な手術だ。先生が一人で行なったのさ」
「違法な手術?」 
 その時、ザワッという不穏な感覚が胸に広がった。
「先生の別荘でやったが、実験段階だから期待しないで欲しいと言われた。こっちは全盲だぜ。失うものなんてない。半分、諦めていたよ。でもな、翌朝、眼帯を外すと見えるようになったんだよ。まさか、こんなに上手く行くとは信じられないぜ」
 手術した右目は自分の意志で自由に動き、瞳孔も光によって大きさを変えてくれる。
 だだし、その目の底は、何となく青白く不気味に光っていて、人間の目というよりも、何か爬虫類の目のように感じられる。
「見え過ぎて怖いくらいだぜ。右目の視力は、2.0だ」
 山田は小鼻を膨らませて恍惚としたように語り続けていく。
「初めて村上先生の顔を見た時、ぶったまげたぜ。女かと思うぐらい綺麗な顔だったからな。そう言えば、羽田さん、あんた、イメージと違うな」
 羽田は大学時代にラグビーをしていたこともあり、見るからに体育会系だ。これまで、何度かアパートの廊下で立ち話をしており、妹の病気のことも詳しく話しているが、声だけの印象だと細身の青白い男のように思っていたという。
「村上先生ってさぁ、教祖様の孫だから不思議な力があるのかもしれないな。入信して正解だったよ。おたくも入信しろよ。沙織ちゃんの病気が治るかもしれないぜ」
 山田は、そう言いながら、教団が出している小冊子を手渡してきたのである。

          ☆

(そういえば、村上先生のおじぃさんは教祖様なんだよな)
 小冊子には、親を大切にしようとか、人への感謝を忘れないようにとか、そんな感じの事が書かれている。
 その教団は、怪しい壷や数珠などを買わせたりしない。