いつもはジャージ姿なのに、やけに、お洒落な装いをしている。
 尾行したところ、洒落たバーに入ったのだ。そして、楽し気にダーツを始めたものだから、羽田はあんぐりと口を開けた。
 スパッ。スパッ。何度も見事にダーツの的の中央付近に命中している。
(どういう事なんだ?)
 半年前、山田は、包丁で林檎を剥こうとして指を切って血まみれになって救急車を呼んでいる。見知らぬ場所での食事をする際には、探るように恐々と指を伸ばしているというのに、カウンターに置かれたカクテルをスイッと掴んでいる。
 山田がトイレに入った時、バーの店員に聞いてみたところ、山田は先週もこに来たというのである。
「あの人ねぇ、女の子をナンパしてますよ。しかも、美人ばっかり」
 その翌日、またしても、羽田はジムの帰り道、山田を見かけた。
 尾行すると、ゲームセンターでゲームに熱中していたのである。
 あいつは見えている。
 障害者手帳が欲しくて、これまで全盲のフリをしていたのだろうか。
 そんな疑念が湧きあがったのだが、眼科では網膜の光の反応を機械で測るので、それはどう頑張っても誤魔化せやしない。
 おそらく、彼の視力が劇的に回復したのだ。
「山田さん、少しお話してもいいですか」
 その翌日、山田が自宅にいるのを見計らってノックをすると、山田がのっそりとした顔つきで出てきた。
「えっ?」
 山田は怪訝そうに目を細めている。
「こんにちは。隣に住んでいる羽田です」
 山田は、羽田を見つめ返しながら、あんたはそんな顔だったのかと言いたげな顔をしている。部屋に入れてもらうと羽田は鬼気迫る勢いで問い詰めた。
「あなたは、一体、いつから見えているんですか」
 鋭い追及に対して山田は目を泳がせた。
 ゲームセンターでの画像を見せると、彼は、観念したのか、誰にも言わないでくれと懇願しながら真相を告白したのである。