違法な手術。それが人魚の力なのか、それとも最先端の科学によるものなのか予測もつかないが、見えるようになるなら何でもいい。
去年、沙織の父は交通事故で亡くなっている。
いつも穏やかに沙織を見守っていたのに、突然、いなくなり、葬儀の夜、ひどく落ち込む沙織を見て胸が痛んだのだが、村上がいたから沙織は早く立ち直れたのかもしれない。
ふと、気付くと羽田は脚をふらつかせて前屈みになっていたのである。急激に視界が霞んでいる。
身体が痺れてしまい両手を床につきながらも、かろうじて顎を上げると村上が告げた。
「どうか、あなたの妹のことは任せて下さい」
先刻、飲んだ紅茶に睡眠薬が入っていたらしい。
羽田は、恐ろしい渦に落とし込まれたかのように戦慄する。
(こいつはサイコパスなのかもしれない。でも、妹を救ってくれるならそれでいい)
やるせないような諦めに似た物悲しさが羽田の心を覆い尽くしていく。
急かすように鼓動が激しくなる。そして、泥の底に引きずり込まれるように意識を失っていたのだ。
☆
『太郎、太郎ーー』
穏やかな磯溜まりに横たわり身を浸していたというのに、やかましさに苛立ちを覚えながら、呻き声を漏らす。身体の節々がだるくて頭が痛い。
『太郎……』
逆光の中、こちらを見下ろす女は粗末な膝丈のボロボロの小袖を着ている。その腰紐が解けていた。だらしなく胸元がはだけておっぱいが丸見えになっている。
女が魚の干物でパンッと羽田の頭を叩きながら喚いている。
『太郎、はよ起きんかい。弟の守りもせんと、何を呑気に寝とんのじゃ』
早く起こそうとしているけれど、どうか、起こさないでくれと願わずにはいられなない。
次の瞬間、羽田の意識は海の底へと落とされていたのだ。プクプクッ。細かい泡が羽田を包み込んでいる。
『わし、信長は嫌いじゃ』
去年、沙織の父は交通事故で亡くなっている。
いつも穏やかに沙織を見守っていたのに、突然、いなくなり、葬儀の夜、ひどく落ち込む沙織を見て胸が痛んだのだが、村上がいたから沙織は早く立ち直れたのかもしれない。
ふと、気付くと羽田は脚をふらつかせて前屈みになっていたのである。急激に視界が霞んでいる。
身体が痺れてしまい両手を床につきながらも、かろうじて顎を上げると村上が告げた。
「どうか、あなたの妹のことは任せて下さい」
先刻、飲んだ紅茶に睡眠薬が入っていたらしい。
羽田は、恐ろしい渦に落とし込まれたかのように戦慄する。
(こいつはサイコパスなのかもしれない。でも、妹を救ってくれるならそれでいい)
やるせないような諦めに似た物悲しさが羽田の心を覆い尽くしていく。
急かすように鼓動が激しくなる。そして、泥の底に引きずり込まれるように意識を失っていたのだ。
☆
『太郎、太郎ーー』
穏やかな磯溜まりに横たわり身を浸していたというのに、やかましさに苛立ちを覚えながら、呻き声を漏らす。身体の節々がだるくて頭が痛い。
『太郎……』
逆光の中、こちらを見下ろす女は粗末な膝丈のボロボロの小袖を着ている。その腰紐が解けていた。だらしなく胸元がはだけておっぱいが丸見えになっている。
女が魚の干物でパンッと羽田の頭を叩きながら喚いている。
『太郎、はよ起きんかい。弟の守りもせんと、何を呑気に寝とんのじゃ』
早く起こそうとしているけれど、どうか、起こさないでくれと願わずにはいられなない。
次の瞬間、羽田の意識は海の底へと落とされていたのだ。プクプクッ。細かい泡が羽田を包み込んでいる。
『わし、信長は嫌いじゃ』
