難しいと言っていた割に、純平はそう教えるところもなく課題を進めていく。
「なあ、おれ、必要なくない?」
「そんなことないよ。先輩が隣にいてくれるだけでやる気が出て解けちゃうんだ。一人だとすぐにスマホを触って脱線しちゃう。きてくれてありがとね、先輩。……大好き」
「そ、そうか? ならいいけど」
しまった。『そうか』がちょっと裏返った。
センターテーブルに対面ではなく、角を挟んだ隣同士で座っているので、純平の視線も声も近い。大人びた純平に低い声で囁くように言われる『大好き』は、やっぱり今までと違う響きを持っている気がした。具体的にどう違うのかはいまだにわからないのだけど。
「あ、正午過ぎてますね。昼飯、オムライスでいいですか?」
ポモロードテクニックで勉強をして、タイマーを四度繰り返した時、現時刻を確認した純平に訊ねられた。
「あ、うん。レンジでチンのやつ? ハウスキーパーさんが作ったやつ? 温めるの、やるよ」
立ち上がった純平におれも続いて、純平の部屋からキッチンへ向かう。
「ううん。俺が作ります」
「えっ! できんの?」
両親の不在が多いため、ある程度のことは自分でやると言っていた純平だけど、料理をするイメージがない。
「留学先の二番目のホストさんに教えて貰ったんです。好きな相手に料理で感謝を伝えられるようになりなって言われて。だから帰国したら先輩に作りたいなって思ってました」
「へ、へー」
また声が上ずってしまった。好きな相手に感謝、ね。アレだろうな。忠犬純平だから、恩返しってところだろうな。
「じゃあ一緒にやるよ。おれ、炒めるの自信あるし」
手振りでフライパンを返す仕草をすると、首を振る。
「この三日間は俺が先輩のことを全部したいの。だから隣で見てて。俺のこと、目を逸らさないで見てて」
だから言い方……だけど目をじっと見てお願いされると今でも目を逸らせなくて、おれは純平に視線を置いたまま「わかった」と答えた。
腕が長く逞しくなったからか、純平の調理手技はなかなかのものだ。ツヤツヤのチキンライスに綺麗なプリーツのある卵を焼いて、『ドレス・ド・オムライス』というものを出してくれた。
さらに外国のハーブティーもつけてくれる。ミントとレモンの香りがなかなかいいな、と思った。おしゃれなもの知ってるな、純平は。
「はい、あーん」
俺がお茶に口をつけると、純平が自分のオムライスを一口分スプーンにのせて、俺に向けてくる。
「するか、純平が食べろ」
そこまで世話されたくないよ、と言いながらそのスプーンを一緒に持って純平の口に突っ込んでやった。
クスクス笑っちゃってさ。だけど楽しそうで何より。せっかく帰国した家で、ひとりのご飯って寂しいと思うから。
もちろんおれも楽しくて、今やおれの方が純平よりも小さいのに、純平よりも多く盛られたオムライスとハーブティーを残さずに平らげた。
「なあ、おれ、必要なくない?」
「そんなことないよ。先輩が隣にいてくれるだけでやる気が出て解けちゃうんだ。一人だとすぐにスマホを触って脱線しちゃう。きてくれてありがとね、先輩。……大好き」
「そ、そうか? ならいいけど」
しまった。『そうか』がちょっと裏返った。
センターテーブルに対面ではなく、角を挟んだ隣同士で座っているので、純平の視線も声も近い。大人びた純平に低い声で囁くように言われる『大好き』は、やっぱり今までと違う響きを持っている気がした。具体的にどう違うのかはいまだにわからないのだけど。
「あ、正午過ぎてますね。昼飯、オムライスでいいですか?」
ポモロードテクニックで勉強をして、タイマーを四度繰り返した時、現時刻を確認した純平に訊ねられた。
「あ、うん。レンジでチンのやつ? ハウスキーパーさんが作ったやつ? 温めるの、やるよ」
立ち上がった純平におれも続いて、純平の部屋からキッチンへ向かう。
「ううん。俺が作ります」
「えっ! できんの?」
両親の不在が多いため、ある程度のことは自分でやると言っていた純平だけど、料理をするイメージがない。
「留学先の二番目のホストさんに教えて貰ったんです。好きな相手に料理で感謝を伝えられるようになりなって言われて。だから帰国したら先輩に作りたいなって思ってました」
「へ、へー」
また声が上ずってしまった。好きな相手に感謝、ね。アレだろうな。忠犬純平だから、恩返しってところだろうな。
「じゃあ一緒にやるよ。おれ、炒めるの自信あるし」
手振りでフライパンを返す仕草をすると、首を振る。
「この三日間は俺が先輩のことを全部したいの。だから隣で見てて。俺のこと、目を逸らさないで見てて」
だから言い方……だけど目をじっと見てお願いされると今でも目を逸らせなくて、おれは純平に視線を置いたまま「わかった」と答えた。
腕が長く逞しくなったからか、純平の調理手技はなかなかのものだ。ツヤツヤのチキンライスに綺麗なプリーツのある卵を焼いて、『ドレス・ド・オムライス』というものを出してくれた。
さらに外国のハーブティーもつけてくれる。ミントとレモンの香りがなかなかいいな、と思った。おしゃれなもの知ってるな、純平は。
「はい、あーん」
俺がお茶に口をつけると、純平が自分のオムライスを一口分スプーンにのせて、俺に向けてくる。
「するか、純平が食べろ」
そこまで世話されたくないよ、と言いながらそのスプーンを一緒に持って純平の口に突っ込んでやった。
クスクス笑っちゃってさ。だけど楽しそうで何より。せっかく帰国した家で、ひとりのご飯って寂しいと思うから。
もちろんおれも楽しくて、今やおれの方が純平よりも小さいのに、純平よりも多く盛られたオムライスとハーブティーを残さずに平らげた。