――ピコン。
 三年前を懐かしんでいると、またメッセージが入ってきた。
『先輩、お願い。返事してよ〜』
 そうだ、早く返事をしないと。
 純平のメッセージどおり、留学生はスマホ制限をされている。週に一度の定められた短い時間のみスマホを操作させて貰えるのだ。
『おはよ。変わりないか? ご飯食べたか?』 
 送信。するといつものとおり、マイクロ秒か、というくらいの速さで返信がきた。
『先輩、ホントおかんだね。大丈夫元気だよ』
『ならよかった。いよいよ帰国だな。ご両親が迎えにきてくれるのか?』
『こないね』
 こないのか……純平ももう高一だし、クラスメイトもいるから大丈夫だろうけど……。
『帰り道わかるか? 空港まで迎えに行こうか?』
 こう訊ねてしまうところがおれが『おかん』と呼ばれる所以なのだろう。特に純平は懐いてくるから、弟妹のように構っている自覚がある。
 そろそろ控えていくべきだろうか。
 だけど純平は、柴犬が喜んでいるスタンプをソッコーで送ってきた。パァァと光が散っているやつ。それと『先輩、大好き!』と。
「ふっ」
 思わず鼻から息が零れた。
 変わらないな、純平。
 入学後、迷わずおれと同じ生物部に入った純平は、活動時間になると俺の横にぴったりとくっついてきて、おれが話しかけたり何か手伝ってやると、すぐに「陽向先輩大好き!」と言ってきていた。
 他の生徒には柴犬距離マンでも、純平は溺愛されて育ったのだろうと予測している。だから空気を吐くように『好き』を連発できるし、先輩に躊躇なく抱きつけるに違いない。つまりおれの弟たちと同レベルということだ。
『きてくれるの? じゃあ到着ロビーで待っててね!』
 わわ。笑っている間に決定してしまった。
 世界に出ても変わらなかったらしい純平がじゃれついてくるのを想像しながら、手の生えたミドリムシが『了解』と言っているスタンプを送信する。
 純平は『もっと話したいけど、帰国前の連絡は親にもするよう指導されてるから、落ちるね』と返してきて、おれも『OK』のスタンプを送信すれば、それでメッセージのやり取りは終わった。
 純平、迎えに行くの喜んでたな。だけどおれも早く会いたかったから嬉しい。
 この一年、スマホ制限のために通話もしていないし写真一枚も送られてきていない。
 たまに学校のホームページで留学の様子がアップされていたものの、普段の純平は柴犬距離マンだから写真に映りこんでいることもなかった。
 だから姿を見るのも実際に話すのも一年ぶり。
 出発前の純平は、百六十八センチのおれよりまだ小さかったけど、背は伸びただろうか。高校生らしくなっただろうか。
 大人びた純平をやっぱり想像できず、おれはスマホをポケットに戻してリビングルームに戻ったのだった。