最後の読者

「お、小山内くん」
「……」

声をかけると小山内くんは顔をこっちに向けた。僕を見て不思議そうに目を見開いた。全く知らない奴に突然話しかけられたのだから当然だ。

「はじめまして。僕は2年の神丘といいます」

「……は、はい。はじめまして……?」

「あ、あのっ、突然失礼だとは思うんだけど、あなたが漫画家のおさない先生の息子さんだと聞いて」

「………」

おさない先生の名前を出した途端、小山内くんがスッと表情を変えた。

「それで…僕、実はおさない先生の大ファンで、て、手紙……あの、ファンレターというか……その……とにかく手紙を書きまして……」

初対面の緊張と、憧れの作家の家族を前にする緊張。
ただでさえ口下手な僕は何度も詰まりながら、自分でもよくわからないことをペラペラ話し続ける。

小山内くんは特に口を挟まずに、そんな僕を見ていた。

「………」

「よ、よければ、……というか迷惑じゃなければ、おさない先生にこの手紙を渡してもらうことって出来ますか?」

そう言って手紙を小山内くんに差し出す。
小山内くんは小さく息を吐いて、指先でそれをつまんだ。……あまり触れたくないとでも言うように。

その様子に、僕は反射的に頭を下げた。

「…ご、ごめん。やっぱりこういうの迷惑……ですか」

「迷惑っつーか……うざい。もうしないでほしい。オレ、親父の話されるのすげー嫌いなんだよね」

「っ!ご、ごめん!もうしません!」

もう一度謝罪する。申し訳なさでいっぱいだった。
手紙を指に挟んだまま、小山内くんはまた息を吐いく。さっきよりも長く、重く。
そして……

「つか、親父の漫画のファンなんて、いるわけねーじゃん」

そうつぶやいた。