最後の読者



扉を開けると、乾いた紙の匂いとほんの少しの埃っぽさを感じた。

ぐるりと部屋を囲むように置かれた本棚にはびっしり本が仕舞われている。それはコミックスだったり、分厚い参考書のような本だったり様々だ。
そして部屋の奥にはパソコンの置かれた机。
パソコンの傍らにはまだ比較的新しい様子の液晶タブレットが置かれていた。

「おさない先生、デジタル作画されてたの?」

何度かツイッターにあげていたカラーもコピックペンで描かれたものだったし、先生はアナログのイメージだった。

「……病気がわかる少し前くらいから練習してたんです。デジタルだからできる表現もあるって」

「そうだったんだね。おさない先生、ずっと漫画描いていてくださったんだ」

そのことがとても嬉しくて、でもやっぱりさみしくて泣きそうになってしまう。
小山内くんに見られないようにうつむいて涙を隠した。

「…はい。親父はずっとずっと…最後まで漫画を描いてました。なかなか会議を通らなくて雑誌に載らなくなっても、体調を崩して寝込みがちになっても、癌がわかって……余命を宣告されても。ずっと、ずっと、ずっと」

小山内くんは小さく鼻をすすると、部屋の押し入れから何かを持ち出してきた。

「……神丘先輩、親父に手紙で書いてくれてましたね。おさない先生の新作をずっと待っているって。
それこそ親父の漫画が雑誌に載らなくなってからも手紙をくれていたって親父が言ってました。本当に、…本当に喜んでた。だから……」

そう言って小山内くんが差し出した数十枚の紙の束。
紙には……漫画が描かれていた。
鉛筆で描かれた下書きのような絵だったが、ハッキリわかった。

おさない先生の絵だ。

「これは…親父が最後に描いていた漫画です。神丘先輩、親父の漫画を読んでやってください。
親父の漫画の……最後の読者になってください」