翔太が自転車を停めて、僕の肩に手を置き顔を覗き込む。すでに辺りは真っ暗で、間近にある翔太の顔も、見えづらくなっていた。
「凪…俺は凪が好きだ。凪を愛してる。もう遅いかもしれないけど、もう一度、俺と一から始めてくれないか?それとも恋人がいるのか?」
僕は、涙をぽろぽろと零して首を横に振る。思いもよらなかった翔太の言葉に、感激で胸が震えた。
「恋人なんていない…。僕は今でも翔太が好きだよ。離れても忘れるなんてできなかった。翔太、ありがとう。僕はさよならを言うために戻って来たのに、まさかこんなに嬉しい言葉を聞けるなんて思ってもみなかった。ありがとう…」
「は?さよならって何…」
翔太の言葉の途中で、僕たちの横に車が急停止する。さきほど、一本道の遠く向こうにライトが見えたあの車だ。懐かしい車に目をやると、窓が開いて中年の男の人が、翔太を呼んだ。
「あっ、おじさん、こんばんは。今、凪と…」
「翔太くんっ!な、凪が…っ、凪が事故にあったって連絡がきたんだっ。俺は今から病院に向かう。留守の間、二人のことを君の両親に頼んできた。病院に着いたら連絡するよっ。凪が無事でいることを祈っててくれ!」
「えっ?」
僕の父さんは、そう一方的に喋って車を急発進させて行ってしまった。
後に残された翔太が、ぽかんと口を開けて僕を見る。
そのあまりにも間抜けな顔に、僕はクスクスと笑い出した。
「え?おじさん何言って…。だって、凪はここに…いるよな?」
僕は翔太の胸に手を当てると、背伸びをして唇にキスをした。ほんの一瞬だったけど、僕の中が幸せな温度に満たされていく。ゆっくりと唇を離すと、翔太の胸をそっと押した。
「僕ね、今日事故にあったんだ。意識が薄れる瞬間、五年前に父さんが再婚してできた新しい家族でもなく、家を出て行った母さんでもなく、一番に翔太に会いたいって思った。身体のひどい痛みに耐えきれなくて、固く目を閉じて、次に目を開けたら…この田んぼ道に立ってた。ああ、神様が願いを聞いてくれた。翔太に会いに行こう。そう思って歩いてるうちに、なぜ自分がここにいるのかを忘れてしまってた。でも、今思い出した。僕は、赤信号で突っ込んできた車に跳ねられたんだ。たぶん、ここにいるってことは、もうダメなんだと思う。父さんや新しい母さん、弟には何もしてやれなかったけど、翔太やおじさんおばさんが近くにいてくれるから、安心だよ。最後に翔太の本心も聞けたし。こんなに幸せなことはないよ。ふふ…翔太、ありがとう。愛してるよ」
「え?あっ!凪っ!凪っ、待っ…!」
翔太が僕に向かって手を伸ばした。だけどその手は、僕の身体を通り抜けて空をかくばかりだ。
僕は満面の笑みを翔太に向けると、静かに目を閉じた。
さよなら、僕の愛しい人…。
「凪…俺は凪が好きだ。凪を愛してる。もう遅いかもしれないけど、もう一度、俺と一から始めてくれないか?それとも恋人がいるのか?」
僕は、涙をぽろぽろと零して首を横に振る。思いもよらなかった翔太の言葉に、感激で胸が震えた。
「恋人なんていない…。僕は今でも翔太が好きだよ。離れても忘れるなんてできなかった。翔太、ありがとう。僕はさよならを言うために戻って来たのに、まさかこんなに嬉しい言葉を聞けるなんて思ってもみなかった。ありがとう…」
「は?さよならって何…」
翔太の言葉の途中で、僕たちの横に車が急停止する。さきほど、一本道の遠く向こうにライトが見えたあの車だ。懐かしい車に目をやると、窓が開いて中年の男の人が、翔太を呼んだ。
「あっ、おじさん、こんばんは。今、凪と…」
「翔太くんっ!な、凪が…っ、凪が事故にあったって連絡がきたんだっ。俺は今から病院に向かう。留守の間、二人のことを君の両親に頼んできた。病院に着いたら連絡するよっ。凪が無事でいることを祈っててくれ!」
「えっ?」
僕の父さんは、そう一方的に喋って車を急発進させて行ってしまった。
後に残された翔太が、ぽかんと口を開けて僕を見る。
そのあまりにも間抜けな顔に、僕はクスクスと笑い出した。
「え?おじさん何言って…。だって、凪はここに…いるよな?」
僕は翔太の胸に手を当てると、背伸びをして唇にキスをした。ほんの一瞬だったけど、僕の中が幸せな温度に満たされていく。ゆっくりと唇を離すと、翔太の胸をそっと押した。
「僕ね、今日事故にあったんだ。意識が薄れる瞬間、五年前に父さんが再婚してできた新しい家族でもなく、家を出て行った母さんでもなく、一番に翔太に会いたいって思った。身体のひどい痛みに耐えきれなくて、固く目を閉じて、次に目を開けたら…この田んぼ道に立ってた。ああ、神様が願いを聞いてくれた。翔太に会いに行こう。そう思って歩いてるうちに、なぜ自分がここにいるのかを忘れてしまってた。でも、今思い出した。僕は、赤信号で突っ込んできた車に跳ねられたんだ。たぶん、ここにいるってことは、もうダメなんだと思う。父さんや新しい母さん、弟には何もしてやれなかったけど、翔太やおじさんおばさんが近くにいてくれるから、安心だよ。最後に翔太の本心も聞けたし。こんなに幸せなことはないよ。ふふ…翔太、ありがとう。愛してるよ」
「え?あっ!凪っ!凪っ、待っ…!」
翔太が僕に向かって手を伸ばした。だけどその手は、僕の身体を通り抜けて空をかくばかりだ。
僕は満面の笑みを翔太に向けると、静かに目を閉じた。
さよなら、僕の愛しい人…。

