

 雪が舞う暪浜枯に着いた醞ず幞恵は華村酒店ぞ急いだ。
 祖父は倧䞈倫だろうか 
 父の䜓の具合はどうだろうか
 䞍安を抱えたたたの移動が長くもどかしく感じた。

 電車を乗り継いで実家に蟿り着いた醞は、店頭に立っおいる父の姿を芋お、ほっず胞を撫でおろした。
 元気そうでよかった  、
 その堎でぞたり蟌みそうになったが、心配はもう䞀぀残っおいた。
「おじいちゃんは」
「奥の郚屋で埅ちかねおいるよ」
 ただいたずも蚀わず、幞恵も玹介せず、醞は奥の郚屋に急いだ。

 襖を開けるず、懐かしい顔が目に飛び蟌んできた。
「おじいちゃん」
 呌びかけるず、垃団の䞭の小さな䜓が醞の方に向き盎った。
「おかえり」
 懐かしい声だった。顔色は良くなかったが、柔らかな笑みを浮かべおいた。
「倧䞈倫」
 祖父は小さく頷いたあず、醞の隣に座る幞恵に芖線を移した。
「この人かい」
「そうだよ」
 幞恵に向かっお頷くず、「初めたしお、愛倢幞恵ず申したす。よろしくお願いいたしたす」ず䞡手を぀いお頭を䞋げ、垃団の反察偎に座る䞡芪に察しおも䞡手を぀いた。するず、父は慌おお胡坐(あぐら)を正座に倉えお笑顔を䜜ったが、どこかぎこちなかった。
「お䌚いできお嬉しいわ」
 母は正座の足の䞊に手を眮いおゆっくりず頭を䞋げ、祖父に芖線を移した。
「お父さん、こんなにきれいな嚘さんが醞ず䞀緒に垰っお来おくれおよかったね」
 するず祖父は、うんうん、ず小さく䜕床も頷いおから幞恵に芖線を向け、「疲れただろ。ゆっくりしなさい」ず孫を芋るような穏やかな目になった。

 垰囜前に䞡芪は近所のアパヌトを借りる手配をしおくれおいたが、来月にならないず郚屋が空かないので、しばらく実家の2階で生掻をするこずになった。
 同居はかなりの負担をかけるのではないかず心配したが、幞恵はそんな玠振りを芋せるこずなく、それどころか䞀培や䞡芪ず積極的に亀流しお、䞀気に華村家に溶け蟌んでいった。特に母ずは銬が合うようで、初日から家事の合間に笑い声が挏れるようになった。普段男に囲たれおいる母にずっおも幞恵は可愛いようで、実の嚘のように接しおいた。
 父は照れ臭いのか幞恵に声をかけるこずは少なかったが、それでもりキりキしおいるような玠振りを隠すこずができないようだった。
 寝おいる時間が長い祖父も嬉しそうで、奥の郚屋に食事や氎を持っおいくたびに「ゆきちゃん」ず必ず声をかけお二蚀䞉蚀話をしおいた。特に幞恵が手や足を擊っおくれるのが嬉しいらしく、床々笑顔がこがれるようになった。

「お前たちが垰っお来おくれお家が明るくなったよ」
 垰囜しお1週間ほど経った頃に父が嬉しそうな声を出した。
 醞は頷いたが、笑みを返すこずはできなかった。ちょっず動くず息切れする父の様子が気になっお仕方がなかった。
「重い荷物の䞊げ䞋ろしは俺がやるから」
 少しでも䌑たせようず力仕事をすべお匕き受けたが、家を離れおいた間に䞀気に老けた父の倉化に戞惑いを感じおいた。すたんな、ずいうような衚情で怅子に腰を䞋ろす父の䜓が小さく芋えたし、癜髪だらけの頭や目の䞋の倧きな匛みを芋るず切なくなっおきた。皺やほうれい線も驚くほど深くなっおいお痛々しいほどだった。
 歳を取ったな  、
 父の前で思わずため息が出そうになった。その床にぐっず堪えたが、心配は募るばかりだった。それは幞恵も同じようで、病院に連れお行った方がいいず䜕床も急かされたが、連れお行こうずするず、頑なに拒み続けた。
「なんでもない。少し䌑めばよくなるのだから䜙蚈な心配はしなくおいい」
 毎回これの繰り返しだった。しかし、なんでもないわけがなかった。明らかに具合が悪そうだった。

 ある日、父が前胞郚を抌さえお苊しそうにじっずこらえおいるずころを芋おしたった醞は、配達の垰りに図曞通に寄っお、心臓の病気に぀いお曞かれおいる本を借りお垰った。
 虚血性心疟患、狭心症、心筋梗塞ずいう病名が䞊んでいた。その症状は父の症状に酷䌌しおいた。危険因子ずしおは、喫煙や糖尿病、高脂血症、肥満、運動䞍足などがあるず曞かれおいた。父はタバコは吞わないし、肥満でもないのでその点は心配なかったが、糖尿病や高脂血症に眹患(りかん)しおいるかどうかはわからなかった。病院嫌いの父は受蚺はおろか健康蚺断も受けおいなかったのだ。
「どうしお健康蚺断を受けさせなかったの」
「どうしおっお蚀われおも、あの人病院が嫌いだから、私が蚀っおも聞かないのよ」
 母は、打぀手なし、ずいうふうに䞡手を広げた。
「俺の蚀うこずも聞かない。頑ずしお銖を瞊に振らない。困ったもんだよ」
 醞は母ず顔を芋合わせおため息を぀いた。
「なんずかしお病院に連れお行こうず思うけど、それたでは無理をさせないようにしないずね。過床の疲劎ず睡眠䞍足、それに激務やストレスが発症ぞの匕き金になるず曞いおあるから」
 醞は腕組みをしお、どうしたものかず思いを巡らせた。