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佐賀夢酒造の酒を仕入れている酒屋はビールの取り扱いを増やしていた。目立つ所にはビールが置かれ、日本酒は隅の方へ追いやられていた。その結果、少しずつだが酒屋からの発注が減っていった。何か月も発注が来ない酒屋も増えていた。しかし、ほとんどが卸経由の流通だったため、その変化に継夢が気づくことはなかった。
それは突然の通告だった。東京の大手酒類卸が取引を止めると言ってきたのだ。その背景には需要予測があった。ビールの大幅な需要増という試算結果により、経営資源をビールに集中させることを決めたのだ。それだけでなく、需要が減少すると予測された日本酒に対して冷徹な対応を取った。取引額の下位2割に相当する酒蔵との取引中止を決めたのだ。その中に佐賀夢酒造が入っていた。
継夢は慌てた。取引中止の撤回を求めて何度もその会社に足を運び、必死になって請願した。しかし、需要予測と販売実績に基づく決定が覆ることはなかった。
暗雲が立ち込めた。しかし、それは嵐の前触れにしか過ぎなかった。東京に続いて大阪の大手酒類卸からも取引中止を宣告されたのだ。
窮地に陥ると、当然のように経営の責任が問われ、継夢に対する解任圧力が日増しに強くなっていった。焦った継夢は全国の取引卸を駆けずりまわったが、取引中止という大きなダメージを挽回することができなかったばかりか、状況を更に悪化させてしまった。火に油を注ぐ結果となったのだ。東京と大阪の大手卸の決定を知った地方卸が続々と追随するという最悪の状態を招いてしまった。
佐賀夢酒造は追い詰められた。見かねた杜氏や蔵人は「継夢では無理だ」と先代にひざ詰め談判した。更に、もし継夢が辞めないのであれば自分たちが辞めるとまで言いだした。
父親は苦悶した。引退してから時間が経っており、体力も気力もなかった。しかし、手をこまねいているわけにはいかなかった。存亡の危機に立たされているのだ。撥ね退けるわけにはいかなかった。
それでも、坂を転がり落ちるような状態で酒蔵を立て直すのは容易ではなかった。昔の伝手を頼って取引の維持を図ろうとしたが、取引先も代替わりが進み、却って見直しをされる結果となった。藪蛇になってしまったのだ。追い詰められた蔵元はなりふり構わず経費削減を徹底したが、それも焼け石に水だった。八方塞がりになった蔵元は蓄えを切り崩してなんとか持ちこたえようとしたが、見通しはまったく立たなかった。いつまで続けることができるのか、時間切れは目前に迫っていた。
佐賀夢酒造の酒を仕入れている酒屋はビールの取り扱いを増やしていた。目立つ所にはビールが置かれ、日本酒は隅の方へ追いやられていた。その結果、少しずつだが酒屋からの発注が減っていった。何か月も発注が来ない酒屋も増えていた。しかし、ほとんどが卸経由の流通だったため、その変化に継夢が気づくことはなかった。
それは突然の通告だった。東京の大手酒類卸が取引を止めると言ってきたのだ。その背景には需要予測があった。ビールの大幅な需要増という試算結果により、経営資源をビールに集中させることを決めたのだ。それだけでなく、需要が減少すると予測された日本酒に対して冷徹な対応を取った。取引額の下位2割に相当する酒蔵との取引中止を決めたのだ。その中に佐賀夢酒造が入っていた。
継夢は慌てた。取引中止の撤回を求めて何度もその会社に足を運び、必死になって請願した。しかし、需要予測と販売実績に基づく決定が覆ることはなかった。
暗雲が立ち込めた。しかし、それは嵐の前触れにしか過ぎなかった。東京に続いて大阪の大手酒類卸からも取引中止を宣告されたのだ。
窮地に陥ると、当然のように経営の責任が問われ、継夢に対する解任圧力が日増しに強くなっていった。焦った継夢は全国の取引卸を駆けずりまわったが、取引中止という大きなダメージを挽回することができなかったばかりか、状況を更に悪化させてしまった。火に油を注ぐ結果となったのだ。東京と大阪の大手卸の決定を知った地方卸が続々と追随するという最悪の状態を招いてしまった。
佐賀夢酒造は追い詰められた。見かねた杜氏や蔵人は「継夢では無理だ」と先代にひざ詰め談判した。更に、もし継夢が辞めないのであれば自分たちが辞めるとまで言いだした。
父親は苦悶した。引退してから時間が経っており、体力も気力もなかった。しかし、手をこまねいているわけにはいかなかった。存亡の危機に立たされているのだ。撥ね退けるわけにはいかなかった。
それでも、坂を転がり落ちるような状態で酒蔵を立て直すのは容易ではなかった。昔の伝手を頼って取引の維持を図ろうとしたが、取引先も代替わりが進み、却って見直しをされる結果となった。藪蛇になってしまったのだ。追い詰められた蔵元はなりふり構わず経費削減を徹底したが、それも焼け石に水だった。八方塞がりになった蔵元は蓄えを切り崩してなんとか持ちこたえようとしたが、見通しはまったく立たなかった。いつまで続けることができるのか、時間切れは目前に迫っていた。



