「――っは……！」

　目が覚める。ベッドから飛び起きると、俺は自室にいた。いつものフィギュアや模型たちに囲まれて、フローリングの床に座り込む。

「全部……夢？」

　呆然としながら、母さんが残していった小説が並ぶ本棚を見つめる。こんなＳＦ小説みたいなことが現実に起きるわけ……そう、全ては夢だったんだ。俺は平凡な男子高校生で、野球選手を目指していて……

「俺が望む、未来……」

　俺はゆっくりと立ち上がって、目尻から流れていた涙を手の甲で拭った。義人の最後の顔を思い出す。手の平を開くと、三角形の焼き印がまだそこにあった。ぐっと拳を握る。

「マツセンの一番弟子、として、まずは我妻をぶっ飛ばす……」

　カーテンを開いて窓の外を見ると、家の前にマツセンがいた。片手には文庫本を持っていて、俺の自室がある二階を見上げ、前髪を掻き上げる。その顔は、怪我をした俺を心配する時の母さんによく似ていた。
　俺は階段を下りて、玄関の扉を開けてから「師匠」と呼んだ。

「逃げるチャンスはあったのに……本当に、弟子になる気？」

　マツセンの言葉に、俺は「すぐ準備します」と応えた。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　了