(人質にこの高待遇は何かしら・・・)
雪は首を傾げながら、眼の前の膳に盛られた白飯と味噌汁、魚の塩焼きを見つめていた。
両手は後ろ手に一括りにされているが、なぜだか縄ではなくリボンだ。痛くはないし、ほどこうと思えば解ける。
やわらかい座布団も、使っているのは雪だけだ。
ここは花散里の空き家。庄屋がかつて引っ越す前に利用していた屋敷だ。蜘蛛の巣はあちらこちらにぶら下がり、とても住めたものじゃないが、事件現場の屋敷はもっと『えげつない』ので、ここで我慢しているらしい。
雪は屍食鬼――つまりは龍胆と菫をおびき出すための『餌』だ。それをわかっていても、雪はあまり動じなかった。龍胆の強さは、ごく最近目の当たりにしたばかりだし、周りをちょろちょろと忙しそうに周る隊員には悪いが、龍胆の足元にも及ばないだろう。
それより心配なのは、自分が果たして『餌』としての価値があるかどうかということだった。
ここは怪異討伐隊の本拠地だ。来れば戦いになるだろう。
来なかったら、このまま雪は人里へ返される。龍胆とは二度と逢えなくなる。
どちらも胸が痛い。雪はぽろりと涙をこぼした。
遠くのほうで、それを見つめる隊士たちがいた。
「いや~、美人っすね」
「隊長に内緒で優しくしちゃいましたけど。あんな儚げな美人に手荒な真似はできねえよ」
「行く先がなかったら、俺が嫁にもらおうかな・・・」
「お前っ!抜け駆けはなしだぞ!」
呑気なやり取りの中、「報告」との知らせが入った。
「桜の巨木の中、空洞あり。無数の女の死体あり。調査せよ!」
「女の死体!? 隊長はもう向かわれたのか?」
すると威圧感のある声が響いてきた。
「うるさい貴様ら。今帰ったところだ」
隊士たちは姿勢を正す。白木蓮は機嫌悪く大股で雪のもとまで闊歩した。
「百年前、この里で変死が多発した。その『被害者』の骸は、ずっと回収されてなかったが、さっきようやく見つけたところだ」
「百年ですか。もう白骨化していたでしょう。よく女だとわかりましたね」
「防腐処理がしてあるらしい。まるで『生き人形』。みんな肌はぴちぴちのまま保管されてたよ」
――あやめのものだ。雪は沈黙したままそう思った。
雪は首を傾げながら、眼の前の膳に盛られた白飯と味噌汁、魚の塩焼きを見つめていた。
両手は後ろ手に一括りにされているが、なぜだか縄ではなくリボンだ。痛くはないし、ほどこうと思えば解ける。
やわらかい座布団も、使っているのは雪だけだ。
ここは花散里の空き家。庄屋がかつて引っ越す前に利用していた屋敷だ。蜘蛛の巣はあちらこちらにぶら下がり、とても住めたものじゃないが、事件現場の屋敷はもっと『えげつない』ので、ここで我慢しているらしい。
雪は屍食鬼――つまりは龍胆と菫をおびき出すための『餌』だ。それをわかっていても、雪はあまり動じなかった。龍胆の強さは、ごく最近目の当たりにしたばかりだし、周りをちょろちょろと忙しそうに周る隊員には悪いが、龍胆の足元にも及ばないだろう。
それより心配なのは、自分が果たして『餌』としての価値があるかどうかということだった。
ここは怪異討伐隊の本拠地だ。来れば戦いになるだろう。
来なかったら、このまま雪は人里へ返される。龍胆とは二度と逢えなくなる。
どちらも胸が痛い。雪はぽろりと涙をこぼした。
遠くのほうで、それを見つめる隊士たちがいた。
「いや~、美人っすね」
「隊長に内緒で優しくしちゃいましたけど。あんな儚げな美人に手荒な真似はできねえよ」
「行く先がなかったら、俺が嫁にもらおうかな・・・」
「お前っ!抜け駆けはなしだぞ!」
呑気なやり取りの中、「報告」との知らせが入った。
「桜の巨木の中、空洞あり。無数の女の死体あり。調査せよ!」
「女の死体!? 隊長はもう向かわれたのか?」
すると威圧感のある声が響いてきた。
「うるさい貴様ら。今帰ったところだ」
隊士たちは姿勢を正す。白木蓮は機嫌悪く大股で雪のもとまで闊歩した。
「百年前、この里で変死が多発した。その『被害者』の骸は、ずっと回収されてなかったが、さっきようやく見つけたところだ」
「百年ですか。もう白骨化していたでしょう。よく女だとわかりましたね」
「防腐処理がしてあるらしい。まるで『生き人形』。みんな肌はぴちぴちのまま保管されてたよ」
――あやめのものだ。雪は沈黙したままそう思った。