(軍服・・・? なぜこんな山の中に)
雪は瞬き、同時に妖怪にでも出くわしたような気持ちになっていた。
(間違いなく、一般人ではないわ・・・)
娘の訝しげな顔を無視して、男はひょうひょうと近づいてくる。逃げようとまごまごしているうちに、男は雪の隣に片膝をついた。
おもむろに帽子を脱ぐ。
「あんたの両親の墓か?」
「は、はい・・・」
「そうか」
男は手を合わせる。そこには真面目な敬意が見て取れて、雪は肩の力が少し抜けた。
やがて男は顔を上げ、帽子を被り直すと、雪へ立ち上がるよう促した。
(何がしたいのかしら)
手を差し出され、無視するわけにもいかず、おずおずと取れば、強い力で引き上げられる。そこで雪はようやく、男の顔を見上げた。
痩せこけた龍胆より、体はがっしりとしている。通った鼻筋、カラスの羽のようなざっくりとした黒髪。黒眼(くろまなこ)は氷のように冷たい温度をしている。だが墓に手を合わせてくれたあたり、見た目と中身は違うのかもしれない。
(龍胆さまと少し似ているわ)
見た目は亡霊のようでも、心は暖かくてやわらかい。どこかしら雰囲気に共通点が見て取れる。
「この里の人間か?」
男は手を握ったまま、雪にたずねた。やたらと距離が近い男だ。雪は視線をさまよわせ、結局自分の手を握る男の手袋を見つめた。
(この手袋、どこかで・・・)
雪は内心首を傾げたが、「はい」と答えた。
「だったら気をつけたほうがいい。例の屍食鬼の事件は聞いているだろう。女がひとりでうろちょろするのは、いささか不用心だ。たとえ失恋していても、だよ」
最後の方はちょっと鼻で笑われた。雪はむっとした。
雪は瞬き、同時に妖怪にでも出くわしたような気持ちになっていた。
(間違いなく、一般人ではないわ・・・)
娘の訝しげな顔を無視して、男はひょうひょうと近づいてくる。逃げようとまごまごしているうちに、男は雪の隣に片膝をついた。
おもむろに帽子を脱ぐ。
「あんたの両親の墓か?」
「は、はい・・・」
「そうか」
男は手を合わせる。そこには真面目な敬意が見て取れて、雪は肩の力が少し抜けた。
やがて男は顔を上げ、帽子を被り直すと、雪へ立ち上がるよう促した。
(何がしたいのかしら)
手を差し出され、無視するわけにもいかず、おずおずと取れば、強い力で引き上げられる。そこで雪はようやく、男の顔を見上げた。
痩せこけた龍胆より、体はがっしりとしている。通った鼻筋、カラスの羽のようなざっくりとした黒髪。黒眼(くろまなこ)は氷のように冷たい温度をしている。だが墓に手を合わせてくれたあたり、見た目と中身は違うのかもしれない。
(龍胆さまと少し似ているわ)
見た目は亡霊のようでも、心は暖かくてやわらかい。どこかしら雰囲気に共通点が見て取れる。
「この里の人間か?」
男は手を握ったまま、雪にたずねた。やたらと距離が近い男だ。雪は視線をさまよわせ、結局自分の手を握る男の手袋を見つめた。
(この手袋、どこかで・・・)
雪は内心首を傾げたが、「はい」と答えた。
「だったら気をつけたほうがいい。例の屍食鬼の事件は聞いているだろう。女がひとりでうろちょろするのは、いささか不用心だ。たとえ失恋していても、だよ」
最後の方はちょっと鼻で笑われた。雪はむっとした。