枯れ花に口付ける鬼 下

「どこへ行ったのですか、猫殿。今なら許してあげますから出ておいで」
芍薬は猫を探す。すると、廊下の先の方で「みゃおん」と鳴き声がした。
「そこにいたのですか。もう私が飼い主です。いい加減にしないとお仕置きしますよ」
「お仕置きか。ならば俺が代わりにやってやるよ」
男の声がした。――そこに立っていたのは。
「白木蓮。まだ生きていたのですか」
体中返り血と自分の血で、軍服を赤黒く染めた白木蓮が、堂々たる構えで道を塞ぐように、廊下に立っていた。
「生憎だが、俺は悪運が強くてね。生き残っちまった。――それと、おたくが飼い始めた猫だが、とても飼いならすのは不可能だと思うぜ」
白木蓮の背後から、青い炎がコ゚ォッと立ち昇る。そこにいるのは化猫――火車となった菫の姿だった。二人の男よりずっと大きな化猫だ。ごちそうを前にヨダレを垂らす。
「なんと」
芍薬は息を呑んだ。
「やっぱり、知らなかったか。・・・あんた、兄貴と違って、妖怪の気配を感じることは愚か、見ることもできねえ一般人だろ。俺の部下に『無能』だなんだと好き放題言ってくれたが、連中のほうがまだ『見えて』たよ」
なあ、黒猫。と白木蓮は猫の顎を撫でる。
「案内ありがとよ。悪いが、こいつの始末は俺に任せちゃくれねえか? 部下の仇を取りたい」
化猫は細目になって思案する。
やがて、炎は消え、小さな少年へと変貌した。
「しかたないですね。どっちが死んでも、僕がおいしくいただくので安心しなさい」
「そりゃあ、結構だな」
菫は雪のもとへ戻る。

少年は、すれ違いざま、あっかんべーをしていった。