雪はふらふらと花散里の山道を歩いていた。両脇にあるのは赤い帽子を被ったたくさんの地蔵。ここは花散里の墓地であった。数ある墓石の上には雪がしっとりと積もっている。
痛々しい涙の跡がのこる頬を、冷たい風がなぶる。足は積もった雪で冷やされ、感覚がない。

それでも歩くのをやめず、たどり着いた場所は、小さな石を積み上げたような墓だった。
雪の両親の墓だ。
雪はおずおずとその場にしゃがむと、墓石に積もっていた雪を払い、語りかけた。
「お母さん。お父さん。わたし結婚できなくなったよ」
無論、返事はない。しんしんと降る白い雪がすべてを覆い隠していく。――はず、だった。

「結婚、できなくなったのか?」

知らない男の声。それもよく通る。
雪はビクッと体を震わせ、後ろを振り返った。
見知らぬ男が立っていた。
白い傘をさしている。軍服に身を包んだ姿は、カラスの化身と言ってもいいほど、しなやかな品格と不気味さを漂わせていた。