ぼうっと暗い廊下に、龍胆は立っていた。あたりを見渡した龍胆は、好戦的な笑みを浮かべた。
(俺はこの場所をよく知っている)
都にいた頃。朝廷の目をかいくぐって密会を開いていた場所だ。穢土で斬った死体を隠す場所でもある。
ふと、可愛い笑い声がした。桃色のベールを被った男の子だ。手には竜笛を持っている。
龍胆は、笛に見覚えがあった。幻術を操る竜笛だ。
(あの笛を受け継いだのは、この子どもか?)
龍胆は舌打ちした。
(従順な子どもばかりを選抜して利用する。――『おとうさま』。あなたはあの頃から何一つ変わっていない)

――鬼さんこちら。手のなるほうへ!

小梅は再び竜笛を奏でる。
廊下の先に、黒い影がズズズ・・・と立ち込める。
大鬼が現れた。
緑がかった分厚い身体。背は脳天が天井を突き抜けるほど高い。
龍胆は慣れた様子で、微塵も動揺しなかった。
「雪はどこだ?」
「うふっ」
小梅も鬼も答えない。下卑た笑みを浮かべるだけだ。
「知らないならいい。せめて邪魔をするな」
龍胆は刀へ手を掛ける。
ブシッ!
鬼の両膝から血しぶきが上がった。
鬼は絶叫し、そのままの勢いで膝をつく。
小梅は瞬く。
(この僕でさえ、ほとんど見えなかった)
龍胆は無表情のまま、鬼の胴体を袈裟斬りに斬った。
鈍い音がする。絶命した鬼は真後ろに倒れる。そのまま動かなくなった。
龍胆は感慨にふけるでもなく、堂々と鬼の死骸を踏み越えてゆく。
「あぶないなぁ」
小梅は梅の花びらを乱舞させ、退散した。
人間だが、ここは小梅が作った幻ゆえ、どこにでも出入り自由だ。

龍胆の歩みは止まらない。


その瞳は、ほんのり青色の光を帯び始めていた。