「・・・まだ痛みますか?」
雪は龍胆の胸元に包帯を巻きながら眉をハの字にした。
「いや、もう傷口は塞がったよ。包帯はもういい、雪。巻きすぎだ」
龍胆は着物に袖を通す。逃げるように雪から離れた。
骸屋との戦い後、屍食鬼の館へ戻ってきた龍胆と雪は、寝ぼけた菫に迎えられ、ようやく一息ついていた。
朝日が昇り、もう昼過ぎだが、雪が降っているせいか、がしゃどくろの氷の結晶は溶けなかった。雪はというと、体に異変も感じていないらしい。
「雪お姉ちゃんは、ぼくとおんなじあやかしになったの?」
菫がうきうきと雪の膝に身を乗り出してたずねる。龍胆はその頭をパンッと叩いた。
「喜ぶな。雪が特殊な能力を持ったのは、仏花のゆりを食したからだ。だがこの俺が副作用の危険も知らずに十年かけて探したと思うかね? 雪は人間だ。少々あやかしを成仏させられるようになったけれどね。人間として生きるのに問題はないだろう」
菫は頭を撫でて「ぼうりょくはんたいっ!」とさけぶ。そしてがっかりしたように唇を尖らせた。
「じゃあ、もう雪お姉ちゃんと『ちゅう』できないんだ・・・」
龍胆は「雪と口づけしたのかっ!? このマセガキ!」と菫を追いかけ回す。「昔からほっぺにしてもらってたもん!」と鼻高々に言う菫。
だが、雪の周りだけ空気が重かった。
「・・・・・・わたし、お嫁に行けないのかしら」
雪は涙目で胸に手を添える。そっと唇を指でなぞった。龍胆は菫の頭を鷲掴みにしていた手を離す。膝を折り、雪の肩に手を添えた。
「ゆき。泣くな。人間の嫁にはなれるだろう」
「わたしは龍胆さまと結婚したいのですっ」
肩の手を振り払い、雪は叫んだ。
「どこにもいかないとおっしゃったじゃありませんか! わたしは、一生」
雪は、竜胆と視線を絡ませる。手を握り、引き寄せた。
「一生、ここであなたと暮らすつもりだったのに・・・」
「う」
龍胆は目を見張る。だが、雪の絡めた手を離し、膝へ置かせた。
「鬼と人間が結婚などありえない。最初から、俺は君を人里へ返す気だったんだ。・・・君は健康になった。もうここから出ていってもやっていけるだろう。その唇は、鬼よけにもなる。安全に、これからは生きていける」
立ち上がり、一度も目を合わせず、龍胆は廊下へ出た。雪は立ち上がり、転びながらも懸命に叫んだ。
「一緒にお出かけしたじゃありませんか。何度も抱きしめて、共にいようと言ってくれたじゃないですか!」
(龍胆さまのばか。うそつき)
雪はぽろぽろ涙がとまらない。ついには泣き崩れてしまった。
取り残された菫も振られたことを悟り、雪のそばを離れ、縁側へ出る。普通の猫へ変化すると、ばっとどこかへ駆けていった。
雪は龍胆の胸元に包帯を巻きながら眉をハの字にした。
「いや、もう傷口は塞がったよ。包帯はもういい、雪。巻きすぎだ」
龍胆は着物に袖を通す。逃げるように雪から離れた。
骸屋との戦い後、屍食鬼の館へ戻ってきた龍胆と雪は、寝ぼけた菫に迎えられ、ようやく一息ついていた。
朝日が昇り、もう昼過ぎだが、雪が降っているせいか、がしゃどくろの氷の結晶は溶けなかった。雪はというと、体に異変も感じていないらしい。
「雪お姉ちゃんは、ぼくとおんなじあやかしになったの?」
菫がうきうきと雪の膝に身を乗り出してたずねる。龍胆はその頭をパンッと叩いた。
「喜ぶな。雪が特殊な能力を持ったのは、仏花のゆりを食したからだ。だがこの俺が副作用の危険も知らずに十年かけて探したと思うかね? 雪は人間だ。少々あやかしを成仏させられるようになったけれどね。人間として生きるのに問題はないだろう」
菫は頭を撫でて「ぼうりょくはんたいっ!」とさけぶ。そしてがっかりしたように唇を尖らせた。
「じゃあ、もう雪お姉ちゃんと『ちゅう』できないんだ・・・」
龍胆は「雪と口づけしたのかっ!? このマセガキ!」と菫を追いかけ回す。「昔からほっぺにしてもらってたもん!」と鼻高々に言う菫。
だが、雪の周りだけ空気が重かった。
「・・・・・・わたし、お嫁に行けないのかしら」
雪は涙目で胸に手を添える。そっと唇を指でなぞった。龍胆は菫の頭を鷲掴みにしていた手を離す。膝を折り、雪の肩に手を添えた。
「ゆき。泣くな。人間の嫁にはなれるだろう」
「わたしは龍胆さまと結婚したいのですっ」
肩の手を振り払い、雪は叫んだ。
「どこにもいかないとおっしゃったじゃありませんか! わたしは、一生」
雪は、竜胆と視線を絡ませる。手を握り、引き寄せた。
「一生、ここであなたと暮らすつもりだったのに・・・」
「う」
龍胆は目を見張る。だが、雪の絡めた手を離し、膝へ置かせた。
「鬼と人間が結婚などありえない。最初から、俺は君を人里へ返す気だったんだ。・・・君は健康になった。もうここから出ていってもやっていけるだろう。その唇は、鬼よけにもなる。安全に、これからは生きていける」
立ち上がり、一度も目を合わせず、龍胆は廊下へ出た。雪は立ち上がり、転びながらも懸命に叫んだ。
「一緒にお出かけしたじゃありませんか。何度も抱きしめて、共にいようと言ってくれたじゃないですか!」
(龍胆さまのばか。うそつき)
雪はぽろぽろ涙がとまらない。ついには泣き崩れてしまった。
取り残された菫も振られたことを悟り、雪のそばを離れ、縁側へ出る。普通の猫へ変化すると、ばっとどこかへ駆けていった。