枯れ花に口付ける鬼 下

龍胆はせきをきったように大声で怒鳴った。
「俺が殺してきた人間の数は、お前よりずっと上だ。上に命じられるまま人を斬り、死体を食う屍食鬼に成り下がり・・・! 俺には雪を幸せにする資格などない!!」
あやめは歩みを止めない。再び桜の枝へ登り、どこからともなく煙管を出すと、ぷかりぷかりと煙を吐く。
やがて、龍胆を見下ろし、「お前さんなあ」と言う。
「なにか、難しく考えすぎてるんじゃないかい?」
「は?」
龍胆は顔を上げた。あやめは寝返りを打つと、ふてぶてしく唇を開いた。
「人を百人斬ろうが千人斬ろうが、どうでもいいことじゃないか」
「・・・なんだと?」
龍胆は眉をひそめる。あやめはさらに続ける。
「死体を食う鬼になった時点で、充分罰を受けているだろう。この世に殺しで地獄行きになったものが何人いると思う? 生きていくために殺したもの。誰かに命じられて殺害したもの。それから、殺してくれと頼まれて血に手を染めたもの。えとせとら、えとせとら、だ」
僕のように、趣味で殺したものも入れてね、と付け加える。
「人を殺して罪の意識はないのか?」
あやめは高らかに笑った。
「無いに決まっている。僕は雪の両親を殺したことだって、悪いと思っちゃいない」
龍胆の眉がはねた。
「雪を弄ぶな・・・!!」
「なにを怒っている。半端者の鬼よ」
あやめはぷかりと煙草をふかすと、龍胆へ突きつけた。
「鬼にもなる気はなく、人殺しも認めない。言い訳ばかりして疲れるだろう」
龍胆は理解できず、「なにが言いたい?」と唇を噛んだ。
「どちらかを選べ、ということさ。人斬りである自分を認め、すべてを背負って生きていくか。鬼となり、死体を喰い散らかし、本物の化け物となるのか」
龍胆は興味をなくし、顔をそらした。
「俺はどちらにもなるつもりはない」
「そりゃあ、贅沢ってもんだ。だが」

――どちらにも染まらない。その贅沢な苦しみを享受(きょうじゅ)するのが、お前さんの生き方なんだろうなあ。

その一言は、龍胆をハッとさせた。
「なにかわかったか、小僧」
あやめは、にやりと笑う。瞬間、龍胆の足元が黄金に輝き始めた。
「なんだ、これは!?」
「お迎えが来たようだな」
「俺はやはり死んでいたのか?」
龍胆は身構える。
「いいや。それは違う。愛しい僕の雪が、お前さんに生きろと言っているんだ」
それを見つめるあやめの瞳は、少しだが未練が見て取れた。・・・雪への未練だ。
光はどんどん龍胆の身体を飲み込んでゆく。
あやめはひらひらと手を降った。
「じゃあな。半端者の鬼よ」

光は龍胆の身体すべてを飲み込むと、螢火のようにふっと消えた。