(あんたがあのとき、俺に結婚を進めなければ、俺はあんたを止められたのか?)
白木蓮は殴られた頬をおさえながら、ペッと血の混じったつばを吐いた。
白木蓮が幸せを掴んだ代わりに、龍胆は修羅の道を選んだ。
隊士たちと焚き火で暖を取る。いつもの隊長らしくないなと囁かれたが、白木蓮は無視した。
あまたの人々の血で手を汚し、屍食鬼にまで転落した男。
(俺が止めていれば、あんたはここまで落ちぶれずにすんだはずなんだ)
いくら昇格しても痩せ続ける身体の意味を、もっと考えるべきだった。
(どこまでもついていくと誓った背中だ。終演へ導くのは俺の努めだ)
――なあ、白木蓮。人を愛するとは、どういう感覚だ?
龍胆の投げかけた問い。うなだれる男の目に、光るものが込み上げた。


