ときを遡り、一週間前。場所は穢土城。
ずっしりと重い夜の闇に包まれた詰め所では、燭台の火がゆらめく。不吉な知らせが舞い込んでいた。
「なにっ!?死者60人だと!?」
軍服に身を包んだ男たちがざわめき、膝立ちになってその知らせを受ける。
「はい。地主を始め、花散里の者の殆どが何らかの怪異に襲われ、死亡したとのこと。遺族とともに調査中の役人は怪異の存在に慣れておらず、我らが怪異討伐隊へ上様から調査命令が出ております。原因と現況の怪異の正体を報告せよとのこと」
「死者の数から穢土への影響を案じておられるのだろう」
ざわめき立つ大勢の男達の中でも、ひときわ声が通る。発言した男は、ゆっくりと大小を腰にさし、立ち上がった。
「皆のもの、ゆくぞ」
ざっくりと切った短い黒髪。帽子のせいで表情はわかりにくいが、ちらりと覗く黒眼は殺気を帯びギラッとにぶく光っていた。
「ゆくって、これからですか!?」
隊員の一人が声を上げた。夜明けを待たずして出発するのかと問うているのだ。
「あたりまえだ。花散里は馬で駆けても5日はかかる。道中での不測の事態を考えても今すぐ出陣するより他にない。――一刻も早く、上様に安心いただかねば」
そう言うと、男は部屋を出ていった。
「なんだか隊長、気合が入ってるな」
「臭うんだろうさ。鬼の匂いが。隊長、敵のなかでも人殺しと鬼には容赦しないからな」
廊下で隊士たちの声を聞きながら、隊長と呼ばれた男は帽子を脱いだ。ふわり、髪を風に遊ばせ、月を見上げた。
「どこに潜んでいる? 人斬り龍胆」
その声は、枯れ葉の乾いた音にかき消されていった。
ずっしりと重い夜の闇に包まれた詰め所では、燭台の火がゆらめく。不吉な知らせが舞い込んでいた。
「なにっ!?死者60人だと!?」
軍服に身を包んだ男たちがざわめき、膝立ちになってその知らせを受ける。
「はい。地主を始め、花散里の者の殆どが何らかの怪異に襲われ、死亡したとのこと。遺族とともに調査中の役人は怪異の存在に慣れておらず、我らが怪異討伐隊へ上様から調査命令が出ております。原因と現況の怪異の正体を報告せよとのこと」
「死者の数から穢土への影響を案じておられるのだろう」
ざわめき立つ大勢の男達の中でも、ひときわ声が通る。発言した男は、ゆっくりと大小を腰にさし、立ち上がった。
「皆のもの、ゆくぞ」
ざっくりと切った短い黒髪。帽子のせいで表情はわかりにくいが、ちらりと覗く黒眼は殺気を帯びギラッとにぶく光っていた。
「ゆくって、これからですか!?」
隊員の一人が声を上げた。夜明けを待たずして出発するのかと問うているのだ。
「あたりまえだ。花散里は馬で駆けても5日はかかる。道中での不測の事態を考えても今すぐ出陣するより他にない。――一刻も早く、上様に安心いただかねば」
そう言うと、男は部屋を出ていった。
「なんだか隊長、気合が入ってるな」
「臭うんだろうさ。鬼の匂いが。隊長、敵のなかでも人殺しと鬼には容赦しないからな」
廊下で隊士たちの声を聞きながら、隊長と呼ばれた男は帽子を脱いだ。ふわり、髪を風に遊ばせ、月を見上げた。
「どこに潜んでいる? 人斬り龍胆」
その声は、枯れ葉の乾いた音にかき消されていった。