「さて、あなたをここに呼び出したのはとても大事な話をする為です。よかったら座ってください。長くなるかもしれません。そうです、どうぞこちらに。さて、秋山さん、あの子猫に牛乳をあげたのは貴女ですか? そうですか。やっぱりそうだと思っていました。生き物が好きで正義感の強いあなたのことです、か弱い子猫を見て何かできないかと思ったのでしょう。善意からでしょうね。けれども殺意があったかどうか、知識があったかどうか、そんなことは被害者にとって関係ありません。秋山さん、わたしはね、この世で無知な人間が2番目に嫌いです。知っていますか? 人間が飲む市販の牛乳は乳糖が多く含まれているんです。猫はそんな乳糖をうまく分解できず、消化不良、即ち乳糖不耐症を引き起こす可能性があるんです。ましてや生まれたばかりの子猫に牛乳を与えたらどうなるでしょうか。自身の傷には人一倍敏感なくせに他人の傷に関する想像力はひどく乏しいあなたには難しい話だったかもしれませんね。さて、わたしは先ほど無知な人間が2番目に嫌いだと言いましたが、それ以上、この世で1番に嫌いなものは、動物の命を軽んじる人間です。わたしはね、動物の、今回で言えば猫ですが───自分より小さな生き物を痛めつける人間を許さないと決めています。しかるべきところで罪を償って貰うのもひとつの手ですが、残念ながら故意的だと判明できない動物虐待は罪に問われません。司法が裁かないのなら個人で制裁を加えるしかありませんね。これは仕方がないことです。美術室(ここ)には法律もルールもありません。重ね重ねですが、あなたに殺意があったかどうか、知識があったかなかったかは関係ありません。秋山さん、あなたが与えた牛乳によって子猫は息を絶ってしまった。あるのはただその事実のみです」

 コップが一つ置かれる。中には白濁色の液体が揺れている。

「さあ飲んでください、ただの牛乳です、怖くはありません」