第8話『復帰』

 陽葵は病院を退院後――学校に登校。
 1ヶ月ぶりの学校だ。陽葵は無表情で教室に入る。
 「陽葵!」
 良太は彼女に気づき、陽葵に向った。
 「あ、良太……」
 陽葵も気づき、小さく手を振る。
 良太は彼女の元まで来る。
 「お帰り、陽葵。退院できたんだな」
 良太は優しげに微笑む。
 陽葵は彼が自分をいたわってくれているのに、心に響かない。
 「まあね。心配かけてごめん」
 彼女は良太の目を見ず、抑揚のない声で言う。
 「別に謝る事じゃないだろ」
 良太は彼女を抱きしめたいという衝動(しょうどう)にかられたが、ぐっとこらえた。
 「そうだけど……」
 「なあ、陽葵」
 「ん?」
 「実はな、俺の悪魔が進化したんだ」
 「進化……」
 「ああ、進化した!」
 良太は笑顔で何度も頷く。陽葵は笑顔を無理矢理、作る。
 「おめでとう」
 小さく弱々しい祝福だ。
 「中の上クラスになった。このまま順調にいけば、高校3年生には、上位悪魔になってるかもな――」
 良太は嬉しそうにペラペラと喋り、自慢話しをする。彼女は嫉妬心は湧かず、非常に淡泊な気持ちで話しを聞く。
 「いいな」
 「そうだろ!」
 「……」
 陽葵は無言で自分の席に行き、スクールバックを机に置く。
 教科書とノート、筆記用具を机に入れていく。
 良太の涙腺が緩み、泣きたくなったが、首を振る。
 「なあ。陽葵」
 「ん?」
 「毎日、デストレ屋に行かないか?」
 「え?」
 良太の発言に、彼女はかたまった。
 「俺は! お前まで死んで欲しくない! 冬のデスゲーム大会に向けて訓練するんだ!」
 良太は真剣な眼差しで、彼女を誘う。
 「毎日……?」
 毎日、デスゲームの訓練を?
 「親父が最近、デストレ屋を経営している友人ができたんだ。頼めば、格安で毎日デストレできるぞ?」
 良太は悪そうな顔でニヤリとする。
 「マジで?」
 「ああ!」
 良太は力強く頷く。
 「……わかった」
 「よし! 決まりだな!」
 それから竜堂くんも誘い、デストレに毎日通い詰めた。学校の授業終わったら、すぐにデストレ屋へ。休日もデストレ屋。無我夢中でデスゲームの訓練をした。
 

 ♦♦♦

 秋、10月21日

 家に帰り、いつものようにアプリを起動させた。
 「ただいま、サマエル」
 「……」
 「サマエル?」
 なんか様子がおかしい。てか、見た目が違う。
 黒髪が灰色の髪になっている。髪が肩まである。
 それに顔立ちも大人っぽい。20代前半くらいの男性に見える。
 着ている服も、白と黒を基調とした軍服のような制服である。
 「陽葵!」
 「ん? なあに?」
 「話がある」
 「どうしたの? サマエル?」
 「どうやら、俺は進化したようだ」
 「やっぱ、進化したんだ!!」
 「魔天使になったみたいだ」
 「え? まてんし?」
 (まてんしとは、何だろう??)
 陽葵は首を傾げる。
 サマエルは腕を組み、神妙な面持ちになった。
 「魔天使が、なんなのか俺が調べる。いいか?」
 「うん、お願い!」
 「後、それだけじゃないんだ、声も聞こえた」
 「声?」
 「結菜さんかもしれない。『わたしが力をあげる』と言っていた」
 「えッ? 結菜が!!」
 陽葵はスマホを強く握る。
 (結菜が? 亡くなったハズの結菜が??)
 「回復魔法が使えるようになった。それだけじゃない、死者蘇生もできる」
 「ええええええ!?」
 陽葵は驚嘆し、スマホを落としそうになった。
 死者蘇生は超絶レアスキルである。
 確か、上の上クラスの悪魔でも獲得できるかどうか、わからない。超レアスキルである。
 何せ、死んだ悪魔を復活させる事ができれば、育成主も蘇生できるのだ。
 デスゲームを真っ向から喧嘩を売っているスキルだ。盤上がひっくり返るレベル。
 「やはり、凄まじいスキルなんだろな」
 「そうだね……」
 そもそも、どうして、結菜がサマエルにそんな力をくれたんだろうか?
 悪魔であるミエルには、死者蘇生のスキルなんて持っていたのだろうか?
 いろんな疑問が湧く。
 「他には、何か言われてない?」
 「『陽葵ありがとう。わたしと一緒にいてくれて』と言っていた」
 「結菜!!」
 まさか、そんな伝言を。陽葵の目頭が熱くなる。
 「陽葵。泣いてもいいぞ?」
 サマエルはスマホの中で、液晶画面に触れ、優しげな眼差しで言ってくれた。
 「な、泣かないもん!」
 彼女は気丈に振る舞おうとしたが、瞳から大粒の涙が出てきた。
 「陽葵。俺は進化したが満足していない。これからもどんどん強くなる。陽葵も一緒に強くなろう」
 「うん……!」
 結菜は言葉と力をくれた。絶対に無駄にしたくないし、いかしたい。
 どれだけ泣いただろう。気づいたら、お母さんが自室に入り、陽葵を抱きしめていた。
 泣き付かれて、いつの間にか眠った。

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