第4話『参拝と食事』

 デスゲーム大会、2日前。
 陽葵達は参道と通っていた。
 東京須佐之男(すさのお)神社。須佐之男命(すさのおのみこと)をまつる神社である。
 デスゲーム大会での勝利を祈願するため、神社を訪れたのである。
 手水舎(てみずや)で口と手を清め、拝殿へ。
 お賽銭(さいせん)にお金をいれ、麻縄(あさなわ)(つか)み、()らして鈴を鳴らす。
 深いお辞儀をし、両手を二回打つ。
 陽葵達は手と手を合わせ、デスゲーム大会での勝利を祈る。
 そして、お辞儀。
 二礼二拍一礼をし終える。
 「ねぇ、お守り買わない?」
 結菜が笑顔で提案する。良太は手を叩き、指をさす。
 「いいねぇ~、やっぱお守りは重要だ。買おう!」
 「私も欲しいな」
 陽葵も笑顔になり、賛同する。
 「……うん、僕も、買う」
 どうやら竜堂も同意見みたいだ。


 陽葵達は売店でお守りを選ぶ。色とりどりのお守り。
 「これと、これと、これと――」
 良太はいろんなお守りを選んだ。陽葵は思わず吹き出す。
 「良太、買いすぎだよ!」
 「いいんだ。たくさんの神様に守られたいんだ」
 良太は恥ずかしげもなく、堂々と購入。陽葵は呆れ顔で見届ける。
 「いいな~、わたしもたくさん買おうかなぁ~」
 結菜は触発されたのか、彼女もあれこれ選ぶ。
 「竜堂くんは?」
 「……2個、くらいで、十分」
 「だよね」
 陽葵も、2個くらいで良いと思った。
 「よし、お前ら。俺がお金を出す。自由に選びたまえ」
 「え? いいの!?」
 結菜は良太に向って、前のめりで食いつく。
 「ああ、いいぞ!」
 「やったー!! ありがとう、桐葉くん!!」
 結菜は満面の笑みで、両手をあげ、それから感謝のポーズを取った。
 陽葵は、二人のコントみたいなやり取りに、思わず吹き出す。
 「あはは! 面白い!」
 「……ふふ、そうだね!」
 竜堂も面白いと思ったのか、自然と笑顔になる。
 陽葵は思う。
 (デスゲーム大会がなかったらいいのに)

 ♦♦♦

 それから昼食。新宿駅の近くにあるイタリアンレストランで、食事をとる事になった。
 人気の店という事もあり、お客が多かった。
 良太の行きつけの店らしく、小学生の頃から通っている。
 彼は陽葵を、たびたび食事に誘ったりする。
 良太は空いている個室を選んだ。
 中に入り、椅子に座る。
 「よし、お前ら。俺のおごりだ、どんどん、頼め」
 「ありがとうございます! 桐葉リーダー!」
 結菜はビシッと敬礼(けいれい)し、感謝する。
 「……ありがとう!」
 竜堂も結菜のマネをして、敬礼する。
 「えっと、私も?」
 陽葵も彼らのノリで敬礼する。
 「そうだ。俺はリーダーだからな」
 良太は腕を組み、偉そうに何度も頷く。
 陽葵達は、遠慮なくバンバンに頼む。
 サラダ、パスタ、ピザ、ドリア、ドリンク――
 15分くらいで、ウエイトレスがあらわれ、テーブルに食膳(しょくぜん)(くば)る。
 陽葵達は喜び、小皿に入れていく。
 彼女らが食後のデザートを頼んだ後、良太はコホンと咳払いする。
 「なあ、お前ら」
 「ん、何? 良太?」
 「なあに?」
 「……ん?」
 良太は席に座りなおし、神妙な表情になった。
 「遺言書(ゆいごんしょ)は書いたか?」
 「えッ!?」
 「えええッ!?」
 「……えッ!!」
 3人は驚嘆(きょうたん)し、かたまった。
 「俺さ。昨日の夜、遺言書を作ったんだ。泣きながらな」
 「どうして、遺言書を?」
 陽葵は(いぶか)しげに問いかける。
 「そうだよ! 遺言書を作るなんて、おかしいよ!」
 結菜も同じ気持ちなのか、憤慨(ふんがい)し大きな声で訴える。
 「……」
 竜堂は腕を組み、良太を見つめ、真意を見定める。
 陽葵は思う。遺言書を書くなんて、死亡フラグを立てるようなものだ。
 勝利したいなら、余計な事をせず、いつも通りの生活をすべきだ。
 「わかってる。けどよ、残された者はきっと読みたいと思わないか? 俺の気持ちや、どんな生き様だったのかとか、家族に対する感謝とか。いろいろあるじゃんか」
 「それは……」
 陽葵は良太の言葉を否定できなかった。
 「……」
 8秒の沈黙の後。
 「わかるかも……」
 結菜は沈黙を破る、つぶやきを放つ。
 「結菜?」
 彼女は顔を上げ、斜め向かいにいる良太の方を見る。
 「わかるけど、遺言書は書かない」
 「どういう事だ?」
 良太は目を細め低い声を出す。
 「遺言書じゃなくて、将来の夢というか、未来の目標を書こうと思う」
 「未来の目標……」
 良太は腕を組み、思考する。
 「死を覚悟して挑んでもきっと、震えて本来の力とか出せないと思うの。それよりも、将来、どんな職業につきたいとか、どんな事がしたいのかとか。結婚はしたいのか? とか、自分の未来について書くの」
 陽葵は彼女の言葉に強く感動し、隣にいる結菜の肩を掴む。
 「結菜、それ素敵じゃん!」
 陽葵の目はキラキラである。
 「……僕も、思う!」
 竜堂も目を輝かせ、前のめりになる。
 良太は敗北を感じたのか結菜をジロリと見て。
 「何だよ。俺よりカッコイイじゃんか!」
 陽葵は思わず吹き出す。
 「良太、嫉妬してるの?」
 「うっさい、陽葵。オナラするぞ?」
 「それは止めて! 良太のオナラ、マジで臭いから!」
 「臭くない、俺のオナラはレモンの香りがする」
 「しないって!」
 「また、始まった、二人の漫才」
 結菜は手を叩いて笑う。
 「ハハハハハハッ――!」
 竜堂は腹を抱えて盛大に笑い出す。
 「ちょ、竜堂、笑いすぎだぞ!」
 「そ、そうだよ!」
 陽葵と良太はこんなに笑っている竜堂を見たのは初めてである。
 「だってさ、二人の夫婦漫才(めおとまんざい)って面白いからさ! つい、笑っちゃった!」
 「誰が、夫婦だって!?」
 陽葵はツッコミをいれる。なぜだか、良太はまんざらでもない表情になる。
 「よくぞ言ってくれた、竜堂!」
 良太の発言に、結菜と竜堂は腹を抱えて、笑う。
 陽葵は思う、こんな楽しい時間がずっと続いて欲しい。
 だが、デスゲーム大会はもうすぐである。
 氷の入った、冷たいアップルジュースをごくりと飲み、決意する。
 (絶対、結菜達と一緒にデスゲーム大会を乗り超える!)


 ♦♦♦