カイの叫びとほぼ同時に、ディーラーはベットの終了を告げる。ルーレットのウィーラーで転げ回っていた真っ白な玉が、徐々に数字の盤の元ヘと落ちてくる。
 握った右手が、しびれるほどに痛い。カイの眼差しと同じくらいの真剣さが、指先から伝わってきた。我知らず、レアもその手を握り返していた。
 強く、強く……。
(赤の1、赤の1……赤の1……!)
 自分の『祝福の手』が、賭け事にまで幸運をもたらすのかはわからない。だが今、酷い結果にならないことを、祈っている。
 きっとこの賭けには、将来もらえるはずの後金も含まれているから……!
 ボールの転がる音が弱まっていく。勢いが落ちて、ウィーラーを走っていたボールは、ついに中央の数字の元ヘと転がり落ちていった。
 コトン、という音と共に落ちた先の、数字は……
「赤の1」
 ディーラーが高らかに宣言する。
 赤の1が含まれる点に賭けていたのは、カイただ一人。その時、ベットテーブルに置かれていた貨幣が、一斉にカイの元ヘと集まってきた。たった一枚の金貨が、一瞬にして『山』へと変貌を遂げたのだった。
「凄い……!」
 感嘆の声を上げるレアを、カイは眩い笑顔で見上げた。
「何を言ってるんだ。君の力だ」
「わ、私は何も……」
「いいや、見ろ。これらはすべて、貴女のおかげだ。何度だってそう言うさ」
 含みのない、まっすぐで純粋な響きの声だった。本心からそう言っていると、信じてしまいそうな、真摯な声音だ。
「お、お役に立てて、なによりです……」
 恥ずかしくて照れくさくて、尻すぼみになりながらそう言うと、カイはニヤリと大きく口の端を持ち上げた。そして集まってきた金貨を用意させた革袋にすべて詰め込むと、歯を食いしばりながらそれを抱え上げた。
「く、重いな……」
 単純計算で、金でできた貨幣が5000枚もあるのだから、致し方ない。
 カイはずっしりと重そうな袋を肩に担ぐと、何でもない風を装って歩き出す。儲けを抱えて外へ……と思ったら、違った。
 カイは、カードゲームのテーブルの前まで行き、再び金貨を1枚、手にした。
「まだやるんですか? こんなに儲かったのに?」
 慌てて止めようとしたレアに、カイは不敵な笑みを向けるのだった。
「止めるのはいつでもできる。だが稼ぐのは、今この時しかない」
 ギラギラした熱気を孕んだ瞳で、カイはそう言う。
 レアは、もはや止められないと悟り、そろりと一歩下がった。右手をカイに差し出しながら、一枚一枚カードが配られていく様を、ただじっと、見つめていた。