「ここって……!」
長い長い廊下は真っ暗で、方向感覚すらなくしそうになっていた。だが、別の男たちに見張られながら歩いた先は、一転して真昼のように明るかった。
そして、先ほどの閑散とした通りが嘘のように、大勢の人で溢れかえっていた。カイのように身なりのいい者、通りにいたようなボロを纏った者、大通りにいた普通の暮らしを営んでいそうな者……様々だ。
そんな彼らがこぞって赤だ黒だと叫び、一枚のカードに一喜一憂し、そしてその結果右に左にと大きく動き回る金銀銅の貨幣を追い回している。
ここは、賭場だ。ハイラ領にはなかったものだ。もっと暗く陰惨な場所を想像していたが、実際は真逆だった。こんなにも煌びやかで、熱気に満ちている場所だとは、思ってもみなかった。
「あまりキョロキョロするな。怪しまれる」
「は、はい!」
そんな声すら咎められながら、レアはカイについて歩く。皆、入り口近くで渡された仮面を着けているためか、互いの顔も素性もわからない。互いに素性を暴こうとしないことが、この場所のルールだと言われた。
そのためか、おどおどびくびくしながら歩いているレアのことさえ、誰一人振り返らない。ただただ、目の前の盤面だけを凝視している。
「賭場って、禁止されてたんじゃなかったんですね」
レアの記憶では、数代前の国王の頃から罰則が設けられていたはずだが、こうして大々的に開いているのなら、法律は変わったのだろう。そう、思っていると……
「そんなわけあるか。違法だ、違法」
カイの小声が飛んでくる。ぎょっとする声を、咄嗟に手で塞がれた。
「まぁ見ていろ。こういうのは、うまく利用するものだ」
言われた意味がわからず、レアが眉をひそめるも、カイは構わず行ってしまう。はぐれないよう必死に着いていくと、カイは大きなルーレット台の前で立ち止まった。
そして、ポケットに手を突っ込むと、金貨を一枚だけ取り出す。
「さてレア嬢、一つ、謝らないといけないことがある」
「な、何ですか?」
「ハイラ子爵に渡した金貨の山……1000枚と言ったが、実は999枚しかないんだ」
「……まさか、残り一枚って……」
「そう。こいつだ」
そう言って、指先でたった一枚掴んだ王国金貨をチラチラと弄んだかと思うと、ぐっと握りしめた。次いで、カイはレアの右手を強く握った。
「これからこの一枚を、約束通り20000枚に増やす」
「は、はい!?」
言うが早いか、カイは指先のたった一枚の金貨を、ベットテーブルに叩きつけた。
「赤の1だ!」
長い長い廊下は真っ暗で、方向感覚すらなくしそうになっていた。だが、別の男たちに見張られながら歩いた先は、一転して真昼のように明るかった。
そして、先ほどの閑散とした通りが嘘のように、大勢の人で溢れかえっていた。カイのように身なりのいい者、通りにいたようなボロを纏った者、大通りにいた普通の暮らしを営んでいそうな者……様々だ。
そんな彼らがこぞって赤だ黒だと叫び、一枚のカードに一喜一憂し、そしてその結果右に左にと大きく動き回る金銀銅の貨幣を追い回している。
ここは、賭場だ。ハイラ領にはなかったものだ。もっと暗く陰惨な場所を想像していたが、実際は真逆だった。こんなにも煌びやかで、熱気に満ちている場所だとは、思ってもみなかった。
「あまりキョロキョロするな。怪しまれる」
「は、はい!」
そんな声すら咎められながら、レアはカイについて歩く。皆、入り口近くで渡された仮面を着けているためか、互いの顔も素性もわからない。互いに素性を暴こうとしないことが、この場所のルールだと言われた。
そのためか、おどおどびくびくしながら歩いているレアのことさえ、誰一人振り返らない。ただただ、目の前の盤面だけを凝視している。
「賭場って、禁止されてたんじゃなかったんですね」
レアの記憶では、数代前の国王の頃から罰則が設けられていたはずだが、こうして大々的に開いているのなら、法律は変わったのだろう。そう、思っていると……
「そんなわけあるか。違法だ、違法」
カイの小声が飛んでくる。ぎょっとする声を、咄嗟に手で塞がれた。
「まぁ見ていろ。こういうのは、うまく利用するものだ」
言われた意味がわからず、レアが眉をひそめるも、カイは構わず行ってしまう。はぐれないよう必死に着いていくと、カイは大きなルーレット台の前で立ち止まった。
そして、ポケットに手を突っ込むと、金貨を一枚だけ取り出す。
「さてレア嬢、一つ、謝らないといけないことがある」
「な、何ですか?」
「ハイラ子爵に渡した金貨の山……1000枚と言ったが、実は999枚しかないんだ」
「……まさか、残り一枚って……」
「そう。こいつだ」
そう言って、指先でたった一枚掴んだ王国金貨をチラチラと弄んだかと思うと、ぐっと握りしめた。次いで、カイはレアの右手を強く握った。
「これからこの一枚を、約束通り20000枚に増やす」
「は、はい!?」
言うが早いか、カイは指先のたった一枚の金貨を、ベットテーブルに叩きつけた。
「赤の1だ!」


