兄弟(ライバル)の一人の減点を摘発できて気を良くしたのか、王都までの道中、カイはなんだか上機嫌だった。
 だが、手は繋いだまま離さないようだった。それほど王都に近づくにつれ危険が増すと言うことなのだろうと、レアは察して身を固くしていた。
 王都に着けば、きっとカイは屋敷で厳重に警護される。果たしてそれからどうやって王位継承権争いの点を稼いでいくのか……様々考えを巡らせているうち、馬車はいつの間にか王都の門をくぐっていた。
「お、大きい……!」
 気付けばそんな声が漏れ出ていた。
 領地の何倍も大きな門の向こうには、何十倍も大きくて、そして豪奢な建物がたくさん並んでいる。今までに見たことのない洗練された街並みだった。道行く人の立ち振る舞いも、店に並ぶ品々も、どれもが領地にあった一級品よりも数段高級なものに見えた。
「楽しそうだな」
 そう呟くと、カイは急に大きな通りで馬車を停めた。そして、レアも引き連れて降りると、行くぞ、と言って歩き出した。何も言わず、ただ黙って、ずんずん歩いて行く。
「あ、あの……殿下?」
 声をかけようとしたら、急にカイは立ち止まった。そして、目の前の露店に並ぶペンダントをじっと検分しだした。そして、おもむろに一つを手に取り、レアの首元に近づけた。百合の花が艶やかに花開く意匠の、銀色のペンダントだ。
「うん、これがいい。親父、これをくれ」
「はいよ。お兄さん、趣味が良いね」
 陽気にそう言う店主に向けて、カイは人の好さそうな笑みを浮かべる。
「ありがとう。なら、花をもう一つ、つけてくれるか」
「……どの花かね?」
「バラの花びらを一つで結構だ」
 にこやかな面持ちのまま交わされる声音に、レアはどこかひやりとした。なんだか奇妙なやりとりだとうっすら思うものの、何が、とは言えない。
 そんなぼんやりした違和感を拭えないままでいると、ふわりと、首に何かが当たった。
「え……?」
 先ほどのペンダントを着けてくれたのだとわかるのに、しばし時間がいった。何よりも、そうして、カイが自分に向けて微笑んでいるということに、驚いていた。