「上位の誰かからの贈り物だ。きちんと換算(・・)してやってくれ」
「……確かに」
 そう言うと、従者はカイを射貫くかもれなかった矢を丁重にしまった。そして、紙に何か書き付けるのだった。
 それが済むと、一行は再び馬車を走らせた。まるで、何事もなかったかのように、粛々と。
「あの、殿下……今、従者の方に何を伝えたんですか?」
「あれは俺の従者じゃない。王家から遣わされた監視官だ」
「監視官? 継承権争いの、ですか?」
 カイは、静かに頷く。
「100人もの候補者からどうやって次期国王を決めるか。それは、より王家として誇らしい行動をしたか、国民に尽くしたか、(まつりごと)に従事したか……そういった点を重視される。100人それぞれがどんな行いをしたのか、さっきの監視官が確認し、数字に換えて加算していくんだ」
「じゃあ、その点が一番大きい方が、次期国王陛下に?」
「その通り。皆、頭を抱えていた。国民に尽くされることが当然で、尽くすことは考えない連中が半数だからな」
「例えば、どんなことをなさっているんですか?」
「大通りの清掃、孤児院の慰問、中には市場の品物を買い占める……などもあったな」
 最後のものは明らかに迷惑行為だろう。そう思っていると、カイには伝わったようだ。ニタリと笑って、頷いている。
「良い行いは確かに評価され、加点される。だが迷惑な行いは当然、減点される……その塩梅こそが、上位の方々には難問なのさ」
 なんだか獲物を見つけた獣のような目だと、レアは思った。カイは100位……つまり現状は最下位と言うことだが、もう上位へ駆け上がる算段がついているというのだろうか。『兄弟』たちを追い落とす算段が。
「まさか、さっきの矢の報告って……」
「ああ。さっきの矢は貴族しか使わない矢羽根が使われていた。王家と生家の名に泥を塗ったその兄弟が誰で、どんな加点がなされるか、楽しみだな」
 カイはくつくつと笑っている。皮肉にも、こんなにも愉快そうに笑う彼を見るのは、これが初めてだった……。