王都への道すがら、二人の間に流れる音は、ただ車輪の回る音だけだった。会話は、ない。レアは何をどうしていいかわからなかったし、カイは目的を達したら後のことは興味がないとばかりに押し黙っている。
時折窓の外を見ては、物憂げな視線を向けていた。領地から離れていくにつれ、その回数が徐々に多くなっていることに、レアは気付いた。
「あの……」
「うん?」
ちらりと、カイはこちらを向く。感情の動いた形跡のない冷えた視線だ。
「王都が、お嫌いなんですか?」
「……なぜ、そう思う?」
「外を、お嫌そうに見ていらしたので……王都に着きたくないのかな、と……」
カイは、じっとりと目を細めて、検分するようにレアを見つめた。
「着いたらわかる。愉快な場所じゃあないということが、な」
氷の刃のような声だ。レアは改めて、自分が女性として好かれて求婚されたわけではないことを悟った。
だが次に顔を上げた時、カイは、じっとレアの顔を見つめていたのだった。
「あの、何か?」
「手を繋いでくれ」
レアはおずおずと、差し出されたカイの手を握り返した。普段、領民に求められるのと同じように。
だがカイは、そのまま動かない。
「あの、何を……?」
尋ねようとしたとき、馬車がぐらりと揺れた。小石でも跳ねたのだろうか。予想外の動きにレアもカイも、思わず腰を浮かせてしまう。そしてそのまま、カイはレアの頭上に手を突いて、倒れかかってきた。
「で、殿下……?」
「『カイ』でいい。これからは夫婦なんだから。それよりも……」
カイの唇が、そっとレアの柔い耳元に寄せられる。吐息と声が同時にかかって、耳が悲鳴を上げているようだった。だが、カイはそれにはかまわずに、告げる。
「危なかった。感謝する」
何が、と問い返すよりも早く、カイの背後……ついさっきまで彼が座っていた場所に突き立つものが目に入った。
矢だ。
レアの方へもたれかかっていなければ、今頃カイは頭を射貫かれていた。
「で、殿下……? これって……」
「言ったろう。王位継承権を争っていると。手っ取り早いのは、候補者を減らすことだと思わないか?」
「思いません……!」
レアの抗議も何処吹く風とばかりに聞き流し、カイは馬車を止めて、併走していた従者に声をかけた。
時折窓の外を見ては、物憂げな視線を向けていた。領地から離れていくにつれ、その回数が徐々に多くなっていることに、レアは気付いた。
「あの……」
「うん?」
ちらりと、カイはこちらを向く。感情の動いた形跡のない冷えた視線だ。
「王都が、お嫌いなんですか?」
「……なぜ、そう思う?」
「外を、お嫌そうに見ていらしたので……王都に着きたくないのかな、と……」
カイは、じっとりと目を細めて、検分するようにレアを見つめた。
「着いたらわかる。愉快な場所じゃあないということが、な」
氷の刃のような声だ。レアは改めて、自分が女性として好かれて求婚されたわけではないことを悟った。
だが次に顔を上げた時、カイは、じっとレアの顔を見つめていたのだった。
「あの、何か?」
「手を繋いでくれ」
レアはおずおずと、差し出されたカイの手を握り返した。普段、領民に求められるのと同じように。
だがカイは、そのまま動かない。
「あの、何を……?」
尋ねようとしたとき、馬車がぐらりと揺れた。小石でも跳ねたのだろうか。予想外の動きにレアもカイも、思わず腰を浮かせてしまう。そしてそのまま、カイはレアの頭上に手を突いて、倒れかかってきた。
「で、殿下……?」
「『カイ』でいい。これからは夫婦なんだから。それよりも……」
カイの唇が、そっとレアの柔い耳元に寄せられる。吐息と声が同時にかかって、耳が悲鳴を上げているようだった。だが、カイはそれにはかまわずに、告げる。
「危なかった。感謝する」
何が、と問い返すよりも早く、カイの背後……ついさっきまで彼が座っていた場所に突き立つものが目に入った。
矢だ。
レアの方へもたれかかっていなければ、今頃カイは頭を射貫かれていた。
「で、殿下……? これって……」
「言ったろう。王位継承権を争っていると。手っ取り早いのは、候補者を減らすことだと思わないか?」
「思いません……!」
レアの抗議も何処吹く風とばかりに聞き流し、カイは馬車を止めて、併走していた従者に声をかけた。