恋はデスゲームの後で

「どういうことなの! カイ=アラヤ!」
 アラヤ公爵邸のドアを破らんばかりの勢いで入ってきたエステルは、カイとレアの姿を認めるなり、そう叫んだ。
 朝食の途中だったレアは一瞬驚いたものの、以前と違って、落ち着いて迎え入れることができた。
「エステル嬢、ご機嫌よう。夫にご用でしょうか?」
 エステルの宝石のようだった瞳が、ぎろりとレアを睨みつける。先日感じた気品や朗らかさは、微塵も感じられない。
「レア嬢、大丈夫だよ」
 悠々と口元を拭い、カイは立ち上がる。
「エステル、どうぞおかけください」
「結構よ。それより説明してちょうだい」
 そう言い、エステルはテーブルに書類を叩きつけた。それは、朝食の前にレアもカイも確認した書類……王位継承候補者に対する通知だ。
 そこにはこう、書かれている。 
『エステル=シルヴォラおよびマティアス=アラヤの評価を取り消し、両名につけた評価をカイ=アラヤに移すこととする』
 荒い息を吐き出すエステルを、カイは静かに見据えた。そして、告げるのだった。
「説明も何も……書いてある通りだ」
 自分の元に届いた通知を、よく見えるようにエステルに示す。エステルは唇を噛みしめ、拳を握りしめ震えている。
「馬鹿な……そんな馬鹿な……だって確かにすべて私が……!」
「説明なら、監視官殿にお願いしようか」
 カイの言葉と同時に、控えていた監視官が姿を現した。常に他の候補者の情報を共有し、公平な評価を下す監視官だからこそ、こういった事態に納得のいく説明をする義務もあった。
「諸手続に誤りが認められました」
「誤り!?」
 監視官は、静かに頷く。
「医院開設予定の場所……その所有者がエステル様ではなく、カイ様であると発覚したのです。それが何故かエステル様のものとなっておりました。また、出資者も同様ですね」
「はぁ!?」
 監視官は別の書類を取り出して見せた。新たな施設を開設する申請書に、解説予定地の権利書……どちらも主な責任者としてカイの名が書かれている。
「おかしいじゃない……土地はともかく、出資者まであなた一人なんて……」
「何がおかしい? 俺の名が書かれるべき場所に貴女の名が書かれていたから、修正しただけだ」
「そんなの、どうやって……!」
 カイは、薄い笑みを浮かべたまま、ゆったりとエステルに歩み寄った。そして、耳元でひっそりと告げる。
「とても狡猾で巧妙なやり口に感心したのでね、真似させてもらった」
 レアはちらりと監視官を窺い見る。書類の偽造が明らかになれば、さすがにカイの方もタダではすまないかもしれない。幸い、監視官はただ成り行きを見守っているように見える。
「そんな……そんなの、誰が……!」
 わなわなと震えるエステルの問いに答えたのは、にこやかな声だった。
「あんなにきれいに色々整えられるのは、俺しかいないでしょ」