「俺は至極まっとうなことを言っているつもりだ。医者は知識も技術もある。だが医院を開くための場所、薬、給金……それらの莫大な費用を用意する財力まで要求すると、医者は救える者も救えない」
力のこもった声に、レアは内心驚いていた。ふと、隣を見るとカイの横顔が目に入る。
声音と同じく、力のこもった視線だった。まっすぐにエステルに注がれる視線は、必ず頷かせてみせるという気迫に満ちていた。
レア以上にそれを感じ取っているのであろうエステルは、腕を組んで考え込んでいる。ようやく顔を上げると、カイの視線を真正面から受けていた。
「それで、あなたは何をするのかしら?」
驚くほどに、先ほどとまったく同じにこやかな顔、にこやかな声音だった。レアは怯んだ様子を見せないようにするので必死だったが、カイは変わらずエステルを凝視している。
「私が儲けたお金を供出して、医院とやらを開くとして……あなたの役割は? それに医院としての儲けは? まさか全部こちら任せにして、提案役として利益をよこせなんて言うつもりじゃないわよね?」
「まさか」
そう言うと、カイは懐から数枚の紙を取り出した。一枚は……朝食の際に見たものだ。
「金は俺も出す。共同出資だ」
「私と同じ額があなたに出せるの?」
「いや出せない。だから、この案の主な名義は貴女に譲る」
これには、またもエステルが目を瞠った。そしてレアも、思わず声を上げてしまった。
「カイ様、それは……!」
カイは、一瞬だけレアを振り返り、小さく頷いた。
「俺の評価はさほど高くはないだろう。言うなれば損だ」
損であり、無意味だ。カイの行動はすべて、王位継承争いの評価に繋がると思っていた。賭場の騒ぎだって、最後にはそうなった。
何故今回は、こんな取り越し苦労でしかない話を、それも自分から持ちかけるのか……エステルでなくとも戸惑うだろう。
だがレアの動揺を余所に、エステルは先ほどまでと同じ、柔らかで華やかな笑みを浮かべた。
「まぁ……カイ=アラヤ、想像と少し違う方だったようね。もっとしたたかで、計算高い方だと思っていましたわ」
「期待外れだったかな?」
「いいえ、その逆。とっても素晴らしい、人格者だったのね。感動しましたわ」
「人格者などではない。俺はただ、治るはずの病で死ぬ者を、少しでも減らしたいだけだ」
「素敵……! ぜひ、あなたのお力になりたいわ」
テーブルをはさんで、エステルがカイの両手をとる。涙混じりにその手を握り返すカイを見て、レアは胸の奥がなんだかむずむずしていた。その正体については、わからなかったけれど。
だが、エステルと固く手を握り合ったカイは、最後はくるりとレアに振り返り、声を出さずに、呟いたのだった。
サア、忙シクナルゾ――!
力のこもった声に、レアは内心驚いていた。ふと、隣を見るとカイの横顔が目に入る。
声音と同じく、力のこもった視線だった。まっすぐにエステルに注がれる視線は、必ず頷かせてみせるという気迫に満ちていた。
レア以上にそれを感じ取っているのであろうエステルは、腕を組んで考え込んでいる。ようやく顔を上げると、カイの視線を真正面から受けていた。
「それで、あなたは何をするのかしら?」
驚くほどに、先ほどとまったく同じにこやかな顔、にこやかな声音だった。レアは怯んだ様子を見せないようにするので必死だったが、カイは変わらずエステルを凝視している。
「私が儲けたお金を供出して、医院とやらを開くとして……あなたの役割は? それに医院としての儲けは? まさか全部こちら任せにして、提案役として利益をよこせなんて言うつもりじゃないわよね?」
「まさか」
そう言うと、カイは懐から数枚の紙を取り出した。一枚は……朝食の際に見たものだ。
「金は俺も出す。共同出資だ」
「私と同じ額があなたに出せるの?」
「いや出せない。だから、この案の主な名義は貴女に譲る」
これには、またもエステルが目を瞠った。そしてレアも、思わず声を上げてしまった。
「カイ様、それは……!」
カイは、一瞬だけレアを振り返り、小さく頷いた。
「俺の評価はさほど高くはないだろう。言うなれば損だ」
損であり、無意味だ。カイの行動はすべて、王位継承争いの評価に繋がると思っていた。賭場の騒ぎだって、最後にはそうなった。
何故今回は、こんな取り越し苦労でしかない話を、それも自分から持ちかけるのか……エステルでなくとも戸惑うだろう。
だがレアの動揺を余所に、エステルは先ほどまでと同じ、柔らかで華やかな笑みを浮かべた。
「まぁ……カイ=アラヤ、想像と少し違う方だったようね。もっとしたたかで、計算高い方だと思っていましたわ」
「期待外れだったかな?」
「いいえ、その逆。とっても素晴らしい、人格者だったのね。感動しましたわ」
「人格者などではない。俺はただ、治るはずの病で死ぬ者を、少しでも減らしたいだけだ」
「素敵……! ぜひ、あなたのお力になりたいわ」
テーブルをはさんで、エステルがカイの両手をとる。涙混じりにその手を握り返すカイを見て、レアは胸の奥がなんだかむずむずしていた。その正体については、わからなかったけれど。
だが、エステルと固く手を握り合ったカイは、最後はくるりとレアに振り返り、声を出さずに、呟いたのだった。
サア、忙シクナルゾ――!


