「残念ながら、ほぼ当たりよ。もう少しお値段は高いけれどね。自分の独創性のなさにため息が出ちゃうわ……」
「ありきたりではあるが、商会と王家の名を併せて話をまとめる力業は、なかなかできることではない」
「まぁ嬉しい。褒めて下さるのね」
「そこで、だ」
はしゃぐエステルを、カイが大きな声で制する。ピタリと動きを止めたエステルに、カイは神妙に告げた。
「あなたのその力業……俺にも貸してはもらえまいか」
「どういうこと?」
可愛らしく小首を傾げるエステルの瞳は、どこかひんやりとしている。
「商材は、黒胡椒以外にもあるだろうという話だ」
「まぁ……『黒い金』以外に何が?」
「わざわざ言う必要などないだろうに。黒胡椒の取引価格を引き上げる代わりに、その他の品の値を下げさせ、東国との交易品をほぼ独占する目論みがあったんだろう?」
その時初めて、エステルの顔から笑みが消えた。対してカイの方は、この部屋に入って初めて、ニタリと口の端を持ち上げている。
「おそらく絵図面はこうだ。黒胡椒の取引をとりつけたと大々的に触れ回り、王家に定期的に献上すると確約する。買い付けた黒胡椒のうち半数は王家に、残りは貴重品として倍以上の値で売り捌く。ただでさえ貴重な交易品に『王家御用達』という看板までついてきたなら捌けるだろう。その影で、同時に買い付けた安価な品々を貧民~中流層に売り捌く。そうやって、王家との繋がりも強め、貴族の顧客も増え、更には中流層以下の民にもシルヴォラ商会の名が浸透する」
エステルは、押し黙ってカイの話に聞き入っていた。注意深く何かを観察しているような鋭い視線で。
「名実ともに、シルヴォラがこの国一の商会として君臨できるわけだ。そして自身は王位継承候補者としての評価が上がる。生家も自身も得ばかりする素晴らしい絵だ」
「……ありがとう」
「素直に礼を述べると言うことは、当たっていたということか?」
「ええ、お見それしたわ」
優雅に、ふわりとお辞儀をするエステルに、カイもまた大きくお辞儀を返した。
「こちらこそ。誰も損をしない素晴らしい商売だ。そこでぜひ、一つ提案したい」
「まぁ、何かしら」
「その力を以て、医院を作らないか」
「医院……ですって?」
ティーカップを持ち上げたエステルの手が、ピタリと止まった。
「医師が常駐している医療施設だ。治療も施薬も、全部一箇所で行うんだ。医師を派遣する手間も費用もかからない」
「馬鹿なことを言わないで。私も父も祖父も商人なのよ。医者の真似事をしたところでいったい何ができるの」
「あんたたちに医者をやれとは言っていない。あんたたちがすることはただ一つ。金を出すこと、それだけだ」
エステルの眉根に、きゅっとしわが寄った。
横で聞いているレアですら、ぎょっとする言葉だったのだから仕方ない。『金だけ出せ』とは随分乱暴な言葉だ。だが、カイは一つも悪びれずに続ける。
「ありきたりではあるが、商会と王家の名を併せて話をまとめる力業は、なかなかできることではない」
「まぁ嬉しい。褒めて下さるのね」
「そこで、だ」
はしゃぐエステルを、カイが大きな声で制する。ピタリと動きを止めたエステルに、カイは神妙に告げた。
「あなたのその力業……俺にも貸してはもらえまいか」
「どういうこと?」
可愛らしく小首を傾げるエステルの瞳は、どこかひんやりとしている。
「商材は、黒胡椒以外にもあるだろうという話だ」
「まぁ……『黒い金』以外に何が?」
「わざわざ言う必要などないだろうに。黒胡椒の取引価格を引き上げる代わりに、その他の品の値を下げさせ、東国との交易品をほぼ独占する目論みがあったんだろう?」
その時初めて、エステルの顔から笑みが消えた。対してカイの方は、この部屋に入って初めて、ニタリと口の端を持ち上げている。
「おそらく絵図面はこうだ。黒胡椒の取引をとりつけたと大々的に触れ回り、王家に定期的に献上すると確約する。買い付けた黒胡椒のうち半数は王家に、残りは貴重品として倍以上の値で売り捌く。ただでさえ貴重な交易品に『王家御用達』という看板までついてきたなら捌けるだろう。その影で、同時に買い付けた安価な品々を貧民~中流層に売り捌く。そうやって、王家との繋がりも強め、貴族の顧客も増え、更には中流層以下の民にもシルヴォラ商会の名が浸透する」
エステルは、押し黙ってカイの話に聞き入っていた。注意深く何かを観察しているような鋭い視線で。
「名実ともに、シルヴォラがこの国一の商会として君臨できるわけだ。そして自身は王位継承候補者としての評価が上がる。生家も自身も得ばかりする素晴らしい絵だ」
「……ありがとう」
「素直に礼を述べると言うことは、当たっていたということか?」
「ええ、お見それしたわ」
優雅に、ふわりとお辞儀をするエステルに、カイもまた大きくお辞儀を返した。
「こちらこそ。誰も損をしない素晴らしい商売だ。そこでぜひ、一つ提案したい」
「まぁ、何かしら」
「その力を以て、医院を作らないか」
「医院……ですって?」
ティーカップを持ち上げたエステルの手が、ピタリと止まった。
「医師が常駐している医療施設だ。治療も施薬も、全部一箇所で行うんだ。医師を派遣する手間も費用もかからない」
「馬鹿なことを言わないで。私も父も祖父も商人なのよ。医者の真似事をしたところでいったい何ができるの」
「あんたたちに医者をやれとは言っていない。あんたたちがすることはただ一つ。金を出すこと、それだけだ」
エステルの眉根に、きゅっとしわが寄った。
横で聞いているレアですら、ぎょっとする言葉だったのだから仕方ない。『金だけ出せ』とは随分乱暴な言葉だ。だが、カイは一つも悪びれずに続ける。


