恋はデスゲームの後で

 シルヴォラ商会――王都随一の店構えと、国中の貴族を網羅していると言える顧客を抱える、まさしく豪商。
 店と言うよりも、豪邸と呼ぶ方が正しいかもしれない。貴族の邸宅が並ぶ区画のすぐ傍に、その大きな看板は掲げられている。だが別段大きくもないし華美でもない。上品なあしらいがいかにも紳士淑女に好まれそうな、風格のある建物だった。
 マティアスによれば、エステルは日中、ここで顧客対応に追われているらしい。
 昨日よりも更に丁寧な装いを纏ったレアとカイは、店に入ってすぐに、『義姉』の名前を告げたのだが……
「申し訳ございません。お嬢様はご多忙ゆえ、お会いできません。ひと月ほどお待ち頂ければ……」
「事前にお会いしたい旨、お手紙を差し上げたのだが?」
「申し訳ございません。すべて目を通す時間もとれず……」
 受付の女性に、ぴしゃりと、そう言われてしまった。エステル嬢の手腕を聞きつけた者が殺到しているという噂は本当だったらしい。
「なんとか、ほんの少しだけでも時間をとってもらえまいか。第99王子カイが、ご挨拶に伺ったと伝えてくれればいい」
「第99王子……アラヤ公爵家の……?」
「いかにも」
 カイが頷くと、受付の女性の顔色がすぅっと変わったのがわかった。まがりなりにも客人に対する恭しさ、商人としての愛嬌、そういったものが剥がれ落ちていった。
「アラヤ公爵家のようなご身分の方が、一商人の娘であるお嬢様のためにお時間を割いて頂く必要はございません」
 その言葉は、慇懃だ。だが礼を含んでいるとはどうしても思えない響きだった。こちらの用件も聞かず、帰れと言っているのだから。
 王族とも取引のある商人が、公爵家を無碍に扱う理由が、レアにはわからなかった。カイは、それほど特別な家柄なのだろうか。前世では聞いたことのない名前ばかりで、まるでわからないのだった。
 だがとにかく、目の前にいる女性は頭を垂れるばかりで、発言を撤回するつもりはないようだった。カイと目を見合わせ、するりと踵を返そうとした、その時だった。
「待って! カイ=アラヤでしょう?」