恋はデスゲームの後で

 第55王子ルーカスが王位継承権を剥奪された。

 このような通知が、王位継承候補者たちの元に一斉に届けられた。あの賭場での出来事の翌朝のことである。
 優雅にコーヒーをすすりながら手紙を確認しているカイを前に、レアはぷるぷる震えながら朝食のテーブルについていた。
 昨日、無事に表通りまで戻ると、カイは何事もなかったかのように馬車に乗り、このアラヤ公爵邸までやって来た。
 カイの名乗る姓と同じなので、生家なのかと思ったが、どうも違うらしい。生家と呼ぶには、どうにもぎこちない。とはいえ、この家の名を名乗る者に対して、屋敷の者は誠意を持って接する。もちろん、カイの連れ帰った『妻』であるレアに対しても同様だ。
 一領主の娘として育ったレアでも受けたことのない歓待に、昨夜から驚きっぱなしだった。
 王都に着いてまず最初に賭場に連れて行かれ、命の危機に晒された驚きも、完全に上書きされてしまったほどに。
 そしてなにより、昨日、一人の人生を大きく転落させてしまったという罪悪感も恐怖もまるで感じさせないカイの悠々とした様子に、改めて戦慄している。
「なんだ?」
 レアの視線に気付いたカイが、ちらりとこちらを見る。まるで興味はなさそうだが。
「昨日のことを、思い出しまして……」
 そうレアが言うと、カイは「ああ」とつまらなさそうにまた手紙に向き直った。
「いちいち気にしていたら身が持たないぞ。俺が王位に就くということは、昨日のアレがあと98回は繰り返されるということだ」
 一人しか王になれないということは、そういうことだ。他のすべては脱落者となるしかない。
「でも……100人もいて、全員をあんな風に追い落とすことはないんじゃ……中には政治に参画して活躍できる方だっていますよね」
「そうだ。あくまで王位継承者から外れるというだけ。それまでの行いが良かったり、能力がある者はそれなりの役目を与えられるものだ。昨日のように消えるのは、使い途のない奴だけだ」
 ルーカスは素行の悪さから、ケルヴィネン家の当主である祖父から勘当されかけていたらしい。王位継承権の剥奪がなくとも、遠からず放逐されていただろうと、カイは言っていた。
 ここは、前世ではゲームの世界だったが、今は現実の世界。身の回りに起こるできごとも、ただの記号や数字ではすまされない世界なのだと、改めて思った。
 一歩間違えば、レアも、悠々とコーヒーを飲んでいるカイも、どうなるかわかったものじゃない。
 そう思うと、また指先が震えてくるのだった。
 だがそこに、軽やかな足音が聞こえて、ぴたりと震えが止んだ。
「怖い怖い。俺は消されないように気をつけないとね」
 そう明るい声が告げた。声の主はレアの席まで近づくと、ふわりとレアの顔を覗き込んできたのだった。