凜とした声だった。声の主である監視官は、鎧を着た兵隊たちを押しのけて室内に入ると、懐にしまっていた紙を取り出した。
「ルーカス王子! 今回の行為についての評価を述べます」
「評価だと? 私はまだ……」
ルーカス王子の抗議の声には構わず、従者と思われたその男性は、紙に記した内容を朗々と読み上げるのだった。
「違法賭博の現場を摘発とのことでしたが、それは誤りであり、第100王子カイ様の私邸であったと認めます。よって、不法侵入の咎で罰が下ります」
「そんな! 侵入などと……」
「建物に入るために戸を破壊しましたね。その他にも、調査と称して壁や床の破壊が見られました。これらは、れっきとした侵入行為です」
「馬鹿な……」
「本来なら、陛下の裁可なく兵を動かしたことがそもそも咎められるべきでした。賭博という重罪行為の摘発だというので一旦見送りましたが……こうなっては見過ごせません。あなたは、王位継承候補者としてふさわしくない行いを繰り返しました。よって減点……いえ、失点です」
『失点』……その言葉が、重く、静かに、響いた。
「し、失点……だと?」
監視官が神妙に頷く。
「あなたの王位継承候補者としての点は、ただいまを以てゼロを下回りました。よって失格とみなし、王家の姓である『ヒルヴィサーリ』を名乗る資格を剥奪します」
「そ、そんな……そんなことになったら私は……お祖父様から家を追い出されてしまう……! 王家の一員だったからこそ今までケルヴィネン家にいられたというのに……!」
縋りつくルーカスを、監視官は見下ろして、告げた。
「私の職務は、王位継承候補者を評価すること。それ以外の方については、私の知るところではない」
その声音には、温もりも、冷ややかさすらも、こもっていない。
「では、カイ=アラヤ=ヒルヴィサーリ殿下……失礼いたします」
監視官は、そう言うと一礼して去って行った。後始末とばかりに、踏み込んできた兵たちと、まだ困惑して泣き叫ぶルーカスを引き連れていく。
足音が通りの向こうへと消え去ると、ようやく、カイは静かに息をついたのだった。
「これで、一人脱落だ……」
そんな声を聞いて、今度はレアが、胸の内に貯めていた息を一気に吐き出した。呼吸すら憚られるような、緊迫した空気が今、ようやく解けたのだった。
「カイ様……さっきのは……」
「兄上が……いや、ルーカスが功を焦って自滅した。それだけのことだ」
「自滅……」
レアは、わかっている。いや、知っている。
先ほどのあれは、自滅などではない。カイによって陥れられたのだ。
ほんの数刻前まで、ここは確かにアーロン一家が取り仕切る賭場だった。カイの助言によって彼らは撤収し、そしてその直前、カイはアーロンからこの建物の所有権を買い取った。
ルーカスの摘発は、本来なら正しかったのだ。
カイの工作によって、ここは僅かな時間で賭場ではなくなり、私邸に変わった。
すべては、カイの仕組んだ顛末であった。
「カイ様、さっきの……ルーカス殿下は、どうなるのでしょうか?」
「もう『殿下』じゃない。そうなったら、後は……俺にもわからんな」
壊れた玩具を投げ捨てるような、そんな無感動な声だった。
これが、王位継承権争いなのだと、ようやく実感した気がする。
この世界は、前世でプレイしたゲームから変わっていると思っていた。だから、もう恐ろしい未来など来ないと、安心しきっていた。
だけど、違うのかもしれない。
先ほどのルーカスの叫び声……あれこそが、真にレアに待ち受ける未来なのかもしれない。
(なんて怖いところに来てしまったんだろう……!)
レアは、今更ながらにして、そう戦慄したのだった。
「ルーカス王子! 今回の行為についての評価を述べます」
「評価だと? 私はまだ……」
ルーカス王子の抗議の声には構わず、従者と思われたその男性は、紙に記した内容を朗々と読み上げるのだった。
「違法賭博の現場を摘発とのことでしたが、それは誤りであり、第100王子カイ様の私邸であったと認めます。よって、不法侵入の咎で罰が下ります」
「そんな! 侵入などと……」
「建物に入るために戸を破壊しましたね。その他にも、調査と称して壁や床の破壊が見られました。これらは、れっきとした侵入行為です」
「馬鹿な……」
「本来なら、陛下の裁可なく兵を動かしたことがそもそも咎められるべきでした。賭博という重罪行為の摘発だというので一旦見送りましたが……こうなっては見過ごせません。あなたは、王位継承候補者としてふさわしくない行いを繰り返しました。よって減点……いえ、失点です」
『失点』……その言葉が、重く、静かに、響いた。
「し、失点……だと?」
監視官が神妙に頷く。
「あなたの王位継承候補者としての点は、ただいまを以てゼロを下回りました。よって失格とみなし、王家の姓である『ヒルヴィサーリ』を名乗る資格を剥奪します」
「そ、そんな……そんなことになったら私は……お祖父様から家を追い出されてしまう……! 王家の一員だったからこそ今までケルヴィネン家にいられたというのに……!」
縋りつくルーカスを、監視官は見下ろして、告げた。
「私の職務は、王位継承候補者を評価すること。それ以外の方については、私の知るところではない」
その声音には、温もりも、冷ややかさすらも、こもっていない。
「では、カイ=アラヤ=ヒルヴィサーリ殿下……失礼いたします」
監視官は、そう言うと一礼して去って行った。後始末とばかりに、踏み込んできた兵たちと、まだ困惑して泣き叫ぶルーカスを引き連れていく。
足音が通りの向こうへと消え去ると、ようやく、カイは静かに息をついたのだった。
「これで、一人脱落だ……」
そんな声を聞いて、今度はレアが、胸の内に貯めていた息を一気に吐き出した。呼吸すら憚られるような、緊迫した空気が今、ようやく解けたのだった。
「カイ様……さっきのは……」
「兄上が……いや、ルーカスが功を焦って自滅した。それだけのことだ」
「自滅……」
レアは、わかっている。いや、知っている。
先ほどのあれは、自滅などではない。カイによって陥れられたのだ。
ほんの数刻前まで、ここは確かにアーロン一家が取り仕切る賭場だった。カイの助言によって彼らは撤収し、そしてその直前、カイはアーロンからこの建物の所有権を買い取った。
ルーカスの摘発は、本来なら正しかったのだ。
カイの工作によって、ここは僅かな時間で賭場ではなくなり、私邸に変わった。
すべては、カイの仕組んだ顛末であった。
「カイ様、さっきの……ルーカス殿下は、どうなるのでしょうか?」
「もう『殿下』じゃない。そうなったら、後は……俺にもわからんな」
壊れた玩具を投げ捨てるような、そんな無感動な声だった。
これが、王位継承権争いなのだと、ようやく実感した気がする。
この世界は、前世でプレイしたゲームから変わっていると思っていた。だから、もう恐ろしい未来など来ないと、安心しきっていた。
だけど、違うのかもしれない。
先ほどのルーカスの叫び声……あれこそが、真にレアに待ち受ける未来なのかもしれない。
(なんて怖いところに来てしまったんだろう……!)
レアは、今更ながらにして、そう戦慄したのだった。


