入り口付近が騒然としている。
人が出入りを繰り返しているような喧噪ではなく、ガシャガシャと騒々しい金属音が鳴り響く。
誰もいない建物の中は、すぐに音が響いてくる。彼らが今どのあたりを歩いているのか、容易に見当がついた。
レアは、カイの傍に立って、ただじっと、音が近づいてくるのを待っていた。
「貴女は、俺の傍にいてくれればいい」
その言葉を守るしかできなかったが、それこそが、自分の最大にして唯一の役割だ。
言われたとおり、じっと立っていると、乱暴な足音がいくつも、レアとカイのいる部屋に近づいて来た。
「第55王子ルーカス=ケルヴィネン=ヒルヴィサーリの名において、この賭場を摘発する!」
そう叫んだ、一瞬の後、ルーカス王子は、ぽかんと口を開けたまま立ち尽くしていた。
そう反応するのももっともだ。
賭場を摘発しようと踏み込んだ建物には人っ子一人おらず、賭場を開いていたであろう物品も証言も何一つなかったのだから。
そして、賭場の元締めを問いただそうとして見つけたのは、元締めであるサムエル=アーロンではなく、ここにいるはずのない第100王子……名目上は弟であるカイ王子だったのだから。
あんぐりと口を開けたままでいルーカスに、カイは朗らかに微笑んだ。
「やあ、ルーカス兄上。ご機嫌麗しゅう」
「100番目のカイではないか。貴様がなぜここに!?」
「なぜって……自分の別荘に来ているのですが?」
「別荘だと!?」
ルーカスの素っ頓狂な声と、カイの飄々とした声……二つの声音の温度差に、周囲の人間は戸惑っていた。もちろん、レアも。
「それで? ルーカス兄上は私に何かご用で? ケルヴィネン卿ご自慢の騎士団まで大勢従えて……」
「お前になど用はない! 私はここに、違法賭博を摘発するために……」
「違法賭博? ここで?」
カイは、きょとんとした顔で部屋を見回す。
ここは先ほどまでは確かにアーロンたち賭場の元締めが座っていた場所だ。だが今は、賭場に関する資料も、アーロンの趣味で調えられた品々も、一切合切姿を消していた。
広くがらんとした質素な家に、青年貴族がぽつんと佇んでいる。それだけの場所となっていた。
「そんな、ばかな……私は確かに、情報を……!」
顔を真っ赤にして獣のようなうなり声を上げるルーカスに、カイは笑いを噛み殺していた。
「ここが、どう見たら賭場に見えるんでしょうか……まぁ納得がいかないと言うなら、気の済むまで調べてもらってかまわないが?」
「ぐっ、ならばそうさせてもらおうか」
ルーカスが苦虫を噛みつぶしたような顔でそう言う。思わず身構えたレアの手を、カイがそっと握った。
そして、それと同時に堂々たる声が室内に響き渡った。
「いいえ、その権限はあなた様にはございません」
人が出入りを繰り返しているような喧噪ではなく、ガシャガシャと騒々しい金属音が鳴り響く。
誰もいない建物の中は、すぐに音が響いてくる。彼らが今どのあたりを歩いているのか、容易に見当がついた。
レアは、カイの傍に立って、ただじっと、音が近づいてくるのを待っていた。
「貴女は、俺の傍にいてくれればいい」
その言葉を守るしかできなかったが、それこそが、自分の最大にして唯一の役割だ。
言われたとおり、じっと立っていると、乱暴な足音がいくつも、レアとカイのいる部屋に近づいて来た。
「第55王子ルーカス=ケルヴィネン=ヒルヴィサーリの名において、この賭場を摘発する!」
そう叫んだ、一瞬の後、ルーカス王子は、ぽかんと口を開けたまま立ち尽くしていた。
そう反応するのももっともだ。
賭場を摘発しようと踏み込んだ建物には人っ子一人おらず、賭場を開いていたであろう物品も証言も何一つなかったのだから。
そして、賭場の元締めを問いただそうとして見つけたのは、元締めであるサムエル=アーロンではなく、ここにいるはずのない第100王子……名目上は弟であるカイ王子だったのだから。
あんぐりと口を開けたままでいルーカスに、カイは朗らかに微笑んだ。
「やあ、ルーカス兄上。ご機嫌麗しゅう」
「100番目のカイではないか。貴様がなぜここに!?」
「なぜって……自分の別荘に来ているのですが?」
「別荘だと!?」
ルーカスの素っ頓狂な声と、カイの飄々とした声……二つの声音の温度差に、周囲の人間は戸惑っていた。もちろん、レアも。
「それで? ルーカス兄上は私に何かご用で? ケルヴィネン卿ご自慢の騎士団まで大勢従えて……」
「お前になど用はない! 私はここに、違法賭博を摘発するために……」
「違法賭博? ここで?」
カイは、きょとんとした顔で部屋を見回す。
ここは先ほどまでは確かにアーロンたち賭場の元締めが座っていた場所だ。だが今は、賭場に関する資料も、アーロンの趣味で調えられた品々も、一切合切姿を消していた。
広くがらんとした質素な家に、青年貴族がぽつんと佇んでいる。それだけの場所となっていた。
「そんな、ばかな……私は確かに、情報を……!」
顔を真っ赤にして獣のようなうなり声を上げるルーカスに、カイは笑いを噛み殺していた。
「ここが、どう見たら賭場に見えるんでしょうか……まぁ納得がいかないと言うなら、気の済むまで調べてもらってかまわないが?」
「ぐっ、ならばそうさせてもらおうか」
ルーカスが苦虫を噛みつぶしたような顔でそう言う。思わず身構えたレアの手を、カイがそっと握った。
そして、それと同時に堂々たる声が室内に響き渡った。
「いいえ、その権限はあなた様にはございません」


