「金庫一つ空にしたところで傾く身代じゃあるまい? 俺の方こそ、王侯貴族たちからせしめた金を、俺のような卑しい者にぽんと分け与えてくれる気前の良さに感服した。ぜひ、懇意にさせてもらいたいな」
「賭け事から学べることは多い……あなた様の『お勉強』に役立つなら、いつでもお待ちしておりますよ」
「せっかくだが『勉強』は間に合っている。俺がしたいのは『人助け』だ」
「『人助け』?」
アーロンは、大きな目玉を一際大きく剥いて笑った。笑い声は、声量以上に大きく響き渡る。
「我々どころか他のお客様の財布まで空にしておいて、よくもまぁ……あなた様の言う『人助け』とは、非常に偽善的であると忠告申し上げる」
「つまりは?」
アーロンがするりと机を避けて、カイに歩み寄る。音も立てずにじり寄る様に、レアは息を呑んだ。
「今なら、『出来心のイタズラでした。ごめんなさい』で済ませて差し上げる……ということですよ」
並び立つと、カイよりも頭一つ大きいアーロンが、頭上から見下ろしている。高みから矢を射かけられるような威圧感だが、それでもカイは揺るがず、ただまっすぐにアーロンを見上げていた。
「はて……『イタズラ』とは?」
「たちの悪いイタズラで我々を翻弄して、気が済んだでしょう。さぁ、種明かしをして、お遊びはおしまいにしてくれませんかね」
アーロンの目玉が、レアの方にもぎょろりと向く。
イカサマを疑われているのだとわかった。そして、それがレアの仕業であるということも、おそらく気付かれている。
息を呑むレアの手を、カイの手が包んだ。他の者からは見えない隠れた位置で、そっと、温もりをくれる。
そしてカイは、したり顔を決して止めないのだ。
「種明かしなど、しようがない。そちらも最初に言っていただろう。俺が『類い希なる幸運の持ち主』だと……」
「偶然の重なりで、この店の金蔵を空にしたと?」
「幸運すぎて申し訳ない。これは本心だ……だから詫びの印に、一つ幸運を分け与えようじゃないか」
眉をひそめるアーロンに、カイは一枚の紙を取り出して見せた。
書いてある文字を読むと同時に、アーロンの顔色はほんの少し変わった。怪訝な面持ちでありつつ、同時に焦りを滲ませた様子でカイを見た。
「これは、本当か?」
「ああ。もうすぐここに、我が『兄君』がやってくる。賭場の摘発のためにな」
それまで押し黙って成り行きを見守っていた男たちが、浮き足立つ。
「まさか……!」
「ボス、早く撤収しませんと……!」
「狼狽えるんじゃねえ」
男たちを一喝し、アーロンはカイをじろりと睨み据える。カイの言ったことを鵜呑みにするわけにはいかないのだろう。
「狼狽える必要はないが、急いだ方がいいのは確かだ。これからやって来るルーカス兄上は、まだこれといった功績がない。開催者も参加者も重罪と定められている賭場を摘発できたとなれば、どれほどの手柄になるか……」
「ああ、わかった! 信用してやる」
自棄気味な声と共に、アーロンは男たちに撤収を命じた。だがくるりと振り返り、カイに釘を刺すように指を突きつける。
「あの金は、預かっておく。ルーカス……55番王子様が本当に来たなら、情報料としてお返ししよう」
「……いや、あの金で一つ、買い物をさせてもらう」
「賭け事から学べることは多い……あなた様の『お勉強』に役立つなら、いつでもお待ちしておりますよ」
「せっかくだが『勉強』は間に合っている。俺がしたいのは『人助け』だ」
「『人助け』?」
アーロンは、大きな目玉を一際大きく剥いて笑った。笑い声は、声量以上に大きく響き渡る。
「我々どころか他のお客様の財布まで空にしておいて、よくもまぁ……あなた様の言う『人助け』とは、非常に偽善的であると忠告申し上げる」
「つまりは?」
アーロンがするりと机を避けて、カイに歩み寄る。音も立てずにじり寄る様に、レアは息を呑んだ。
「今なら、『出来心のイタズラでした。ごめんなさい』で済ませて差し上げる……ということですよ」
並び立つと、カイよりも頭一つ大きいアーロンが、頭上から見下ろしている。高みから矢を射かけられるような威圧感だが、それでもカイは揺るがず、ただまっすぐにアーロンを見上げていた。
「はて……『イタズラ』とは?」
「たちの悪いイタズラで我々を翻弄して、気が済んだでしょう。さぁ、種明かしをして、お遊びはおしまいにしてくれませんかね」
アーロンの目玉が、レアの方にもぎょろりと向く。
イカサマを疑われているのだとわかった。そして、それがレアの仕業であるということも、おそらく気付かれている。
息を呑むレアの手を、カイの手が包んだ。他の者からは見えない隠れた位置で、そっと、温もりをくれる。
そしてカイは、したり顔を決して止めないのだ。
「種明かしなど、しようがない。そちらも最初に言っていただろう。俺が『類い希なる幸運の持ち主』だと……」
「偶然の重なりで、この店の金蔵を空にしたと?」
「幸運すぎて申し訳ない。これは本心だ……だから詫びの印に、一つ幸運を分け与えようじゃないか」
眉をひそめるアーロンに、カイは一枚の紙を取り出して見せた。
書いてある文字を読むと同時に、アーロンの顔色はほんの少し変わった。怪訝な面持ちでありつつ、同時に焦りを滲ませた様子でカイを見た。
「これは、本当か?」
「ああ。もうすぐここに、我が『兄君』がやってくる。賭場の摘発のためにな」
それまで押し黙って成り行きを見守っていた男たちが、浮き足立つ。
「まさか……!」
「ボス、早く撤収しませんと……!」
「狼狽えるんじゃねえ」
男たちを一喝し、アーロンはカイをじろりと睨み据える。カイの言ったことを鵜呑みにするわけにはいかないのだろう。
「狼狽える必要はないが、急いだ方がいいのは確かだ。これからやって来るルーカス兄上は、まだこれといった功績がない。開催者も参加者も重罪と定められている賭場を摘発できたとなれば、どれほどの手柄になるか……」
「ああ、わかった! 信用してやる」
自棄気味な声と共に、アーロンは男たちに撤収を命じた。だがくるりと振り返り、カイに釘を刺すように指を突きつける。
「あの金は、預かっておく。ルーカス……55番王子様が本当に来たなら、情報料としてお返ししよう」
「……いや、あの金で一つ、買い物をさせてもらう」


