▽▽

 それからまた二日ほどが経って、三と書かれた動画がアップされた。
 名前はいまだにランダム英数字だし、投稿者の紹介文はないし、投稿動画の紹介文もない。ここまでくればわざとなんだな、と分かってくる。もしかしたらそこそこ有名なクリエイターがやっているのかもしれない、と、コメント欄は謎の盛り上がり方をした。
 前回は男が消えたところで終わったから、今回はその続きではないか。そう期待をして、動画を再生する。
 黒い画面に白と黒とグレーの砂嵐のようなノイズが走る。どうやらまた森の中のようだ。今回は男の真後ろから撮影はしておらず、少しカメラが引いていて、森の中の開けた空間だとわかる。画像は暗く加工されているから、昼か夜かは分からない。
 男は手に何かを持っている。細長く硬質なそれを、持ち上げて、振り下ろした。持ち上げて、振り下ろす。持ち上げて、振り下ろす。
 BGMはないから、男が何かを殴打している音がノイズに交じって聞き取れる。それは硬質な何かだ。硬質なもので硬質なものを殴る、硬質な響きの音。人のような柔らかい生き物を殴打しているのではないようだ。もっと、硬い。石のようではない。金属のようでもない。
 ならば男が殴打しているのは、木か。
 しかし男の向こうには男よりも大きな木は生えていない。いや、男の立っている広場のような空間の向こう側には、男の背丈よりも高い木は生えている。しかし、男が殴打しているあたりには、無い、はずだ。
 男は数回殴打した後、上から下へと手を振り降ろすのをやめて、横に殴ように振りぬいた。右から、左へ。右手に持った何かを、右に大きく開いて振る。ちょうど男の体に隠れるような位置に何かあるらしく、右手はその辺りで止まる。バッドをスイングするかのような動きだ。
 片手で殴打するのを数回繰り返し、その後は両手で持って殴打した。一回、二回、三回。
 ひときわ大きなノイズが走り、動画はそこでぶつりと切れた。男が何を殴打していたのか、それが分かる前に動画は終了した。
 コメント欄はそこそこ盛り上がった。何を殴打しているのか、考察大会が開かれたのだ。
 少なくともこの時点では、視聴者はこれが、フィクションであると認識していた。