「うーん。好きな紅葉の名所かぁ。いうても京都はただでさえ人が多いし、紅葉シーズンはさらに観光客でごった返すからなぁ」
渋い顔で腕組みをする茜さん。
確かに彼女の言う通り、今京都の街はどこも人で溢れかえっている。
場所によっては交通規制がかかるので、私も猫神様の背中に乗せてもらわなければ移動も難しいほどだ。
「そっか……。じゃあ、茜さんはあんまり紅葉には興味ない?」
「いやいや、そういうわけやないけど。でもどうせ行くんやったら、街の中心地からはちょっと離れた所に行くかなぁ」
「離れた所?」
うん、と茜さんは頷くと、今度はスマホを取り出して操作する。
「例えばほら、この西山の方とか。この辺りにも紅葉スポットは色々あるけど、混雑はそんなしてないと思うで」
彼女が見せてくれたスマホの画面には、街の西側の地図が表示されていた。
京都の街は北、東、西の三方を山に囲まれていて、それぞれの山は北山、東山、西山と呼ばれている。
茜さんが示したのは、その西山の麓に広がるエリアだった。
「歴史のある神社とかお寺とかもあるし、紅葉も綺麗やし、穴場やと思うで」
「穴場……」
思えば、これまで緋彩さんと一緒に回った場所は人気の観光スポットばかりだった。
誰もが知っている定番のエリアを離れて、こういった穴場を好む人もいる。
特に前世の緋彩さんは体が弱かったというので、人混みを避けてゆっくり紅葉を楽しめる場所を求めていたかもしれない。
私は自分のスマホを取り出して、西山エリアの紅葉スポットを検索した。
大原野神社、 善峯寺など、紅葉に彩られた美しい境内の写真がいくつも表示される。
「すごい……こんなに綺麗な所がいっぱいあるんだ」
思わず、恍惚の溜め息を吐く。
京都の魅力には果てがない。
知れば知るほど、見たこともない世界がどこまでも広がっている。
(明日は緋彩さんに、こっちのエリアも提案してみようかな)
ぼんやりとそう考えている内に、テーブルの向こうでは茜さんが肉巻きを頬張って「おいしー!」と叫んだ。
その幸せそうな笑顔に、私も釣られて頬が緩む。
明日は緋彩さんにも、こんな風に笑ってほしい。
私は再びスマホに視線を落として、西山エリアの地図を眺めた。
複数の山々から成る西山連峰は、京都市だけでなく他の市や県にもまたがっている。北は亀岡市から、南は大阪の高槻市まで。
向かう場所はまだたくさんある。
ほのかな希望を胸に、私は気持ちを奮い立たせた。



