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春はあけぼの。
夏は夜。
秋は……ええと、なんだっけ。
夕暮れの景色ももちろん綺麗だけれど、現代なら夜でも紅葉のライトアップが見られるし、それも良いよね——なんて。
ぼんやりとそんなことを考えている内に、ふわりと柔らかいものが肩に触れた。
ハッと瞼を開けると、すぐ目の前には女性の顔。
至近距離でこちらと目が合ったのは、茜さんだった。
「あ。ごめんなぁ、桜。起こしてもた?」
人好きのする笑顔でそう言った彼女の手には、ブランケットが握られている。どうやら私の肩に掛けようとしてくれていたみたいだ。
「茜さん、おかえり。……私、また寝ちゃってたんだ」
寝ぼけ眼を擦って手元に視線を落とすと、テーブルの上には歴史の参考書が開かれたままになっていた。
びっしりと文字が並んでいるページの端っこには、見覚えのある平安貴族たちの絵が載っている。
「最近、勉強がんばっててえらいなぁ。でも、あんまり張り切りすぎて体壊さんようにしいや?」
「うん。ありがとう、茜さん」
茜さんも仕事で疲れているはずなのに、こうして気遣ってくれるのが私は嬉しかった。
「あ。今日の晩御飯、テーブルの上に置いてあるから。茜さんの好きな肉巻きを作ったよ」
「えっ、肉巻き!? やったー! あれめっちゃ好きやねん!」
茜さんの好物が野菜の肉巻きであることを、ここ数ヶ月の間に私は学習した。
それを猫神様に話したところ、彼が美味しい味付けを教えてくれたので、こうして私も時々作るようにしている。
「桜はもう食べたん?」
「うん。私はもうお腹いっぱい」
「じゃあ甘いもんでも飲む? あったかーいココア作ったるで!」
茜さんが作ってくれるココアは美味しい。甘さもミルクの量も丁度良くて、飲むとホッと心がとろける。
彼女のお言葉に甘えることにして、私たちは一緒にダイニングへ移動した。
テーブルを挟んで向かい合わせに座り、他愛もない話を共有する。
「……そうだ、茜さん。この京都の中で、好きな紅葉の名所ってある?」
ふと思いついて、私は質問してみた。
茜さんにはまだ、緋彩さんのことは話していない。そもそも猫神様の正体も明かしていないので、あまり詳しい話をすることはできない。
彼女の前ではできるだけ隠し事はしたくなかったけれど、まだ全てを話すには私の心の準備が整っていなかった。
「紅葉? そういえば、そろそろ十一月も終わりやし、紅葉も見納めやなぁ」
もうじき十二月。
冬の始まりはすぐそこまで迫っている。
秋の終わりが訪れるまでに、緋彩さんの想い人を捜し出すことはきっと難しいだろう。
それでも明日は、彼女のために出来ることがしたい。
たとえ目的は果たせなくても、彼女が納得できる形で、彼女をあちらの世界へ送り出してあげたい。



