◯
ようやく迎えた土曜日。
週末ぐらいは私も何かお手伝いがしたい、と意気込んで向かった先斗町で、私は呆気に取られた。
「え……。緋彩さん、どうしたんですか?」
例の狭間の場所。
そこで約一週間ぶりに顔を合わせた緋彩さんは、まるで魂が抜けたように意気消沈としていた。
座布団の上に正座した彼女は、ぽけーっと口を半開きにしたまま天井の辺りを眺めている。
もはやこちらの声も聞こえていないのか、なんの反応も見せない彼女。
代わりに、向かいに座る猫神様が私に応えてくれた。
「この一週間ほど、紅葉の名所を色々と回ってみましたが……有力な手がかりは得られませんでした。緋彩さんも、少し疲れてしまったのかもしれませんね」
私が学校に行っている間も、おそらくはあちこちを駆け回っていた二人。
連日の疲労と、情報が集まらない焦りとで心身共に参ってしまったのだろうか。
「……もう、よいのです」
やがて消え入りそうな声でそう言ったのは、緋彩さんだった。
「これ以上、猫神様にご迷惑をかけるわけにはいきません。それに、紅葉のシーズンももうじき終わりますから……わたくしは、幽世へ帰ります」
もはや諦めの境地に至ったと見える彼女。
その様子に、猫神様は困ったように苦笑する。
「私に対しての遠慮でしたら、必要ありませんよ。あなたのようなあやかしを案内するのが、私の役目なんですから」
「ですが……」
緋彩さんが黙り込むと、建物の外からは微かに雨音が聞こえてくる。
今日は久しぶりの雨だった。
明け方から降り出したそれは、どんどん強さを増している。
この天気の中では、きっと紅葉を見に行く人の数も減ってしまうだろう。
それにこの雨足の強さでは、おそらく落葉のペースも進んでしまう。
もう時間がない。
それに有力な情報も得られず、緋彩さん本人も猫神様への罪悪感に苛まれている。
このままでは本当に、彼女は捜し人を見つけられないまま幽世に帰ることになってしまうかもしれない。
「諦めてはいけません」
そう反論したのは、猫神様だった。
「緋彩さん。あなたの心の中には、あなたの想い人が常にいるはずです。その想いはきっと、幽世に帰っても忘れることはできません。今ここで自分に出来ることを最後までやり切らなければ、あなたはきっと後悔すると思います」
そう訴えかける彼の声には、確かな熱が込められていた。
このまま幽世に帰ってしまったら、緋彩さんはきっと後悔する。
未練を残したまま、また長い年月をあちらの世界で過ごすことになる。
その悲しみを、辛さを、猫神様は誰よりも理解しているのだ。



