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翌朝は学校のため、私は緋彩さんに協力することができなかった。
それでも放課後になったら合流しよう、と意気込んでいたものの、それも猫神様にやんわりと断られてしまった。
「桜さんは今、大事な時期ですから。こちらのことは気にせず、勉強に集中してください」
私のことを気遣っての言葉だと、頭ではわかっている。
けれど、なんだか戦力外通告を受けたときのような寂しさが胸に募る。
その翌日も、翌々日も、放課後は先斗町に寄ってみたものの、例の狭間の場所へ辿り着くことはできなかった。
おそらくあの二人は、今日もこの街のどこかへ繰り出しているのだろう。
「…………はぁ」
金曜日の昼休み。
私が机に頬杖をついて大きな溜め息を吐くと、正面に座る柚葉さんが目をぱちくりとさせた。
「どしたん、天沢さん。ここ最近、元気なくない?」
「うん……。なんていうか、両立って難しいなと思って」
「両立?」
迷えるあやかしを助けたい。私にできることが少しでもあるのなら、力になりたい。
けれど受験勉強も大切で、猫神様も気を遣ってくれている。
結局どっちつかずになっている私。
そんな悩みを柚葉さんに打ち明けると、彼女は「肩肘張りすぎとちゃう?」と苦笑する。
「猫神様は多分、天沢さんが思ってる以上に天沢さんのことを心配してると思うで。やから今は勉強に専念して、あやかしのことは猫神様に任せといたらええんとちゃうかな」
「そう……なのかな」
彼の優しさに甘えるべきなのだろうか。
確かに、彼からのせっかくの厚意を無碍にすることはできない。
でも……と、未だ煮え切らない気持ちのまま顔を上げ、何気なく窓の外へ目をやると、
「あ」
どこまでも澄み渡る秋空の真ん中を、見慣れたもふもふの姿が横切っていく。
白い体毛に、赤い模様が少しだけ入ったネコ科の巨獣。優雅に空を飛んでいくそれは、猫神様だった。
獣の姿になった彼は、背中に緋彩さんを乗せている。きっと、今日もこれから紅葉の名所を訪れるのだろう。
「……天沢さん? おーい。聞いてる?」
そんな柚葉さんの声で、私は我に返った。
「あ、ごめん柚葉さん。何?」
「いや。なんかボーッとしてたから、また何か見えてるんかなと思って」
「……うん。ちょうど猫神様が近くを飛んでた」
こんなに近くにいるのに、私には何もできない。その歯痒さが、胸の奥でもやもやと渦を巻く。
「なあ、天沢さん。あたし思うんやけど……」
と、柚葉さんが急に神妙な顔をしたので、私は「何?」と身構える。
「天沢さんがそこまで悩んでるのって、猫神様と会われへんのが寂しいって気持ちもあるんとちゃうの? なんならその緋彩さんって人にヤキモチ焼いてたりとか」
指摘されて、私は固まる。
緋彩さんにヤキモチを焼いている。
私が?
「そっ……そんなわけないでしょ!?」
思わず全力で否定すると、思いのほか声が大きくなってしまった。
途端に静まり返った教室を見回して、私は羞恥で顔を真っ赤にさせながら机に突っ伏した。



