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結局、その日は特に収穫がないまま夜を迎えた。
再びお腹も空いてきたので、私たちはまた猫神様の背中に乗って先斗町へ戻る。
そして例によって猫神様はお料理の支度、その間に私と緋彩さんは部屋の掃除に取り掛かった。
一時間ほどすると、食事の準備が整ったようで、猫神様の「ご飯ですよー」という声を合図に、私たちは食卓についた。
今晩の献立は、かぼちゃの煮物にほうれん草のおひたし。それからごぼうの唐揚げと、メインはブリ大根。
食欲をそそる香りに当てられて、思わず私の喉が鳴る。
「さあ。冷めないうちに召し上がれ」
「いただきます!」
相変わらずどれも美味しそうだけれど、まずは何からいこうか。
最初に目についたのは、かぼちゃの煮物だった。
ホクホクと湯気の立つそれを口へ運ぶと、途端に舌の上でやわらかく崩れていく。かぼちゃ本来の甘みと煮汁が合わさって、口の中が幸せな味で満たされる。
「うぅー……やっぱり美味しいです」
味の良さはもちろん、体もほっこりと温まって、一日の疲れが一気に溶けていく。
隣に座る緋彩さんも、それはそれは美味しそうに食事を進めていた。
けれど、控えめに微笑む彼女の顔には、常にうっすらと哀愁が滲んでいる。
紅葉の季節が終わるまでに、捜し人は見つかるだろうか。
その不安は言葉にせずとも、私たちの周りをぼんやりと包んでいた。
やがて食事が終わると、私は帰ることになった。
いつものように猫神様が家まで送ってくれることになっていたけれど、その前に一つだけ、どうしても気になることがあった。
「あの、猫神様。今夜は……猫神様と緋彩さんは、ここで二人っきりってことですよね?」
建物の外に出たところで、私は尋ねた。
緋彩さんはまだ、幽世に帰るわけにはいかない。だから今夜は猫神様のところに泊まることになる。
それは当たり前の流れで、仕方のないことなのだけれど……彼らが一つ屋根の下で一夜を過ごすというのが、なんとなく気になってしまった。
「ええ。それが何か?」
猫神様はけろりと答える。
そんな彼の様子を見ていると、なんだか私だけが変な意識をしてしまっているようで、段々と恥ずかしくなってくる。
「あっ。い、いえ。なんでもないです」
何を余計な心配をしているんだろう、私は。
顔が熱い。もしかしたら赤くなっちゃってるかも。
もはや穴があったら入りたい気分で、たまらず視線を逸らすと、
「心配しなくても、部屋には鍵が付いてますから。緋彩さんのプライベート空間に私が踏み込むようなことはありませんよ」
と、猫神様はさらりと言ってのけた。
「え……」
再び彼の顔を見ると、彼はいつもの穏やかな笑みを浮かべている。
どうやら私が何を考えていたのかはお見通しだったようで、それを認識した瞬間、私の顔面はさらに茹で蛸のようになった。
「あ……えっと……」
「ご心配をおかけしてすみません。もし、私のことが信用できないようでしたら、今夜は桜さんもここに泊まっていきますか?」
「へっ!? い、いえ! 大丈夫です!」
私はもはや目を回して、平常心を取り戻すのに必死だった。
そんな私を、猫神様は少しだけおかしそうに、やんわりと微笑んで見守っていた。



