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京都には、紅葉の名所と呼ばれる場所がたくさんある。
今朝の清水寺を含めたお寺や神社の他にも、大きな公園や植物園まで。
「さすがに、全ての場所を回ることは難しいかもしれませんね。紅葉が見られるのも、長くてあと二週間ほどやと思いますから」
二週間。
残された期間で全ての場所を巡るとなると、確かに人捜しをしている余裕はない気がする。
となると、向かう場所はある程度絞る必要がある。
「行き先に迷う時間も惜しいので、ここは一つ、緋彩さんの直感に頼ってみましょか」
言いながら、猫神様は手元からポンッと白煙を上げたかと思うと、テーブルの上に大きな地図を出現させた。
「こちらは、この辺りの紅葉マップです。紅葉狩りで人気のあるスポットが紹介されてます。この中で、どこか気になる場所や、聞き覚えのある名前などはありませんか?」
京都の中心部とその周辺までが描かれた地図のあちこちに、有名な観光スポットの名前が載っている。
こうして見ると、やっぱり京都には魅力的な名所がたくさんあるのだと改めて実感する。
緋彩さんは地図を眺めながら、「そうですね……」と悩ましげに目を細めていた。
「さすがに、名前だけではイメージが掴みづらくて……」
「では、こちらはどうでしょう?」
ポンッと再び白煙が上がったかと思うと、今度は地図の上に一冊の本が現れた。
どうやら観光雑誌のようで、表紙には『京都』、『秋』、『紅葉』などの文字がでかでかと掲げられている。
猫神様がすぐさまページを開くと、そこには鮮やかな紅葉の写真とともに施設などの詳細が網羅されていた。
東福寺、北野天満宮、瑠璃光院、哲学の道など、私も知っている有名なスポットが紹介されている。
「これは……」
何枚かページをめくったところで、緋彩さんの手が止まった。
彼女がじっと見つめていたのは、南禅寺にある水路閣の写真だった。
赤く色づいた楓の葉の奥に、レンガでできたアーチ状の橋脚が見える。
「この場所が、気になりますか?」
猫神様が聞くと、緋彩さんは自信なさげに、けれどゆっくりと首を縦に振った。
「ぼんやりとですが……以前にも、この風景を目にしたことがあるような気がします。もしかしたら、テレビや雑誌でたまたま目にしただけかもしれませんが」
「確証はなくても構いません。少しでも可能性があるのなら、一緒にその場所へ行ってみましょう。今はとにかく、手当たり次第に進むしかありませんから」
そう提案する猫神様の様子は、どことなく気が急いているように見えた。
残り二週間ほどしかない、という焦りからだろうか。
心なしか、いつもとは違う彼の様子に、私はほんの少しの違和感を覚えた。



