「体調の良い日は、お互いの病室によく遊びに行きました。それから好きな本の話をしたり、中庭で見かけた花のことを話したり、いつか一緒に遠出ができるとしたらどこへ行きたいか、なんて……」

 緋彩さんの思い出話を聞いていると、二人はとても仲睦まじくしていたことが伝わってくる。
 本当に、彼女はその人のことが大好きだったのだろう。

 ただ、彼女が思い出せるのはどれも病院の中での記憶ばかりだった。
 したがって、彼らの病院自体が一体どの辺りにあったのかはわからない。

 そして何より気がかりだったのは——

「……おそらくあの人も、すでにこの世にはいないでしょう。わたくしがこの世を去った時点で、あの人も余命いくばくもなかったのですから」

 薄々わかってはいたことだけれど、やはり彼も、すでに亡くなっている可能性が高いという。

 二人が当時好きだったという本やテレビ番組などの内容からすると、彼女たちが生きていたのは少なくとも十数年以上前。
 それほどの長い年月を生きる体力は、彼には残っていなかったのだ。

「ですが、わたくしたちは約束したのです。たとえ生まれ変わっても、必ずまた会いに行くと……。あの人ももしかしたら、今頃どこかで何かに生まれ変わって、わたくしを捜しているかもしれない。だからわたくしも、彼を捜します。そのために、わたくしはこの現世までやって来たのです」

 彼が今どこにいるのか、どんな姿になっているのか、現時点でわかることは何もなかった。

 何も見えない闇の中を、手探りで進むような捜索。
 そんな中で、唯一の手がかりとなったのは、

「いつか……一緒に紅葉を見に行きたいねって、彼が言っていたのです」

 その人が口にしたという、ささやかな願い。
 何気ない会話の中にあったというその言葉を、緋彩さんは今でも覚えていた。

「病室の窓からも、楓の葉が色づいていく様子を見ることはできました。ですが、紅葉の名所と呼ばれるような所へ行ったことは、わたくしもその人も一度もありませんでした。たとえテレビや写真の中で目にしたことはあっても、実際にこの目に映したときの景色はきっと違うものになるでしょう。その風景を、あの人は私と一緒に見たいと言ってくれたのです」

 紅葉の名所。
 思えば私たちが緋彩さんを見つけたのも、紅葉の見頃を迎えた清水の舞台だった。

「秋の終わり……山々が赤く色づくこの季節に、あの人はどこかでわたくしのことを待っていてくれる気がするのです」

「だからあなたは、あの場所にいたんですね」

 猫神様が、納得した様子で呟く。

 彼女がなぜこの時期にこの世界へやって来たのか。なぜ清水寺にいたのか。その理由が、私にも痛いほどわかった。

 もし、彼女がその人と再び会うことができるとしたら、それはきっと、周囲が赤く色づくこの季節に違いない。

 紅葉が散って、冬が来る前に、私たちはなんとしてもその人を捜し出さなければならなかった。